第4話 最初の処分
決断は、思っていたより静かに訪れた。
地下の会議室。
拷問室ほど汚れていない。白蘭の部屋ほど白くもない。
中途半端な清潔さが、ここにはある。
長机の向こうに、例の男が座らされていた。
手首には拘束具。顔色は悪いが、命に別状はない。
白蘭の“仕事”は完璧だった。
「情報は裏が取れました」
景明が、淡々と報告する。
「話している内容に虚偽はありません」
私は頷いた。
それで終わり。
――のはずだった。
「で」
烈が、軽い調子で口を挟む。
「どうするんです?」
その言葉が、空気を切り替えた。
男が、びくりと肩を震わせる。
私は、彼を見る、もう敵ではない。でも、味方でもない。
ただの“処理待ち”。
「生かす選択肢は?」
私でも意外なほど、冷静な声だった。
烈は即答する。
「ありません」
白蘭も、頷いた。
「ここまで知った人間は、生きて外に出せない」
正しい、誰も間違っていない。それが、一番怖かった。
男が、私を見る。
「……お願いします」
その声は、拷問室で聞いた悲鳴より、ずっと小さい。
私は、視線を逸らさなかった。
守られて育った、そう言われるのは、もう慣れている。
でも今、この場で私を守る人はいない。
私が、決める。
「方法は?」
烈が、にやりと笑った。
「いくらでも」
白蘭が、静かに言う。
「苦しませない方法もある」
私は、少しだけ息を吸った。白蘭を見る。
「……任せる」
陳の笑みが消える。代わりに、興味の色が浮かんだ。
「医者に?」
「ええ」
私は言う。
「見せしめじゃない。処理よ」
白蘭は、薄く微笑んだ。
「賢い選択」
男が、理解した瞬間、泣き崩れた。
「待って……!」
その声に、胸が一瞬だけ痛んだ、でも。
「連れて行って」
それ以上、言葉は出さなかった。
白蘭が男の腕を取り、立ち上がらせる。その動きは、驚くほど優しい。
烈が、私の横に立つ。
「初めてにしては、上出来ですよ」
褒め言葉なのが、余計に嫌だった。
「……慣れる?」
私が聞くと、烈は即答した。
「慣れます」
白蘭は、振り返らずに言った。
「慣れなくていい」
二人の言葉は、正反対だった。
それでも、どちらも“黒林”だ。
扉が閉まる。
私は、一人になる。自分の手を見る。
血は、ついていない。
それなのに、
胸の奥に、何かが確かに落ちた。
――最初の処分。
音もなく、私の中で、何かが終わった。
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