第5話
「すいませーん。サンタさん。あ、風間さんも、こっちに5人くらい来てください」
高橋の声がした。
律子は近くの4人と一緒に高橋の方に向かう。
「人が多すぎて、向こうにも会場を設けたので、そっちにまわってください」
「すいません。段取り悪くって。こんな時期に急なイベントなもんですから」
高橋は頭を掻きながら派遣バイト相手に恐縮している。
「じゃ、みなさん。後ろ振り返って、そのまままっすぐ進んでもらえますか」
5人は一斉にふりかえると4人が前に歩き出す。
あれ?4人。
1人、律子だけ、なぜかそのまま後ずさりはじめると、思いっきり誰かの足を踏んだ。
「痛っ! 風間さん! 何してるんですか!?」
足を踏まれたのは後ろをついてきていたマネージャーだった。
「ごめんなさいっ!!すいません」
「後ろ向いてまっすぐそのまま進めって…」
「後ずさりなんか指示するわけがないでしょ‼︎」
「高橋君!こういう子もいるんだから、ちゃんと伝えてください!」
「あなたはゲーゲルの正社員で、もう2年目なですから、しっかりしてください。たのみますよ」
「すいませんっ」
高橋はとんだとばっちりだ。
カシャッ ギッ
(え?またあの音)
律子が音のする方を向くと、やせた中年の男性が小さなカメラを手にしていた。
古臭い大衆的な、昔どこの家庭にもあったようなコンパクトカメラ。
カメラを覗いているのは、ひどく痩せた中年の男性。メガネをかけている。額が広く…頭髪は薄い。
(カメラマン?にしては何?あの安っぽいカメラ。ゲーゲルの人?にしては服装がみすぼらしいっていうか、テキトーっていうか、この場にそぐわない)
(いやいや、私もそうとうなんだけど、でも私は派遣でゲーゲルじゃないし、一応はゲーゲルの受付だけどゲーゲルじゃないし…。でもサンタだから今はあってるか、TPO)
その男性は私の視線に気がつくと、いきなり言ってきた。
「さっきのスピーチ聞いたか」
「あ、はい」
「どう思った」
「なんか、かっこいいですね。アメリカのCEO。若くて、ハンサムで。ザ・ゲーゲルって感じ」
「ふんっ。ガブリエルの奴。大天使にでもなったつもりか」
(え?呼び捨て?)
「お知り合いなんですか?あ、ゲーゲルの方だったら知ってておかしくないですよね。すいません」
男性が律子を見つめなおした。
「さっきからずっと挙動がおかしいが、好奇心も強いんだな」
「私はここのエンジニアだ。彼とは、アメリカでちょっと一緒だったことがある」
「ところで。そのシャンパンもらえるか」
「はいっ。すみません。気が付かなくて」
「ゲーゲルのカッコつけには慣れっこだが、朝っぱらからシャンパンとは高級ホテル並みだ」
「あ!間壁さんっ」
高橋の声だ。
「間壁明彦さんですよね。高橋といいます」
「ゲーゲルの社員です。憧れてます!すごい嬉しいです!」
「高橋君か。はじめまして。別にどこの社員でもかまわないが、サンタでないことは見ればわかる」
カシャッ ギッ
カチッ カリカリカリカリカリカリ チャッ
間壁はそういうとフィルムが終わったカメラを巻き上げた。
(フィルムカメラだったんだ。どこでプリントしてるんだろう?)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます