第4話
7時30分。
ゲーゲルジャパンのホールにミサ曲が大音量で流れる。
この曲はいま全世界に鳴り響いているのだろう。
大型スクリーンに若く精悍で理知的な男性の姿が映った。
ゲーゲルの新たなCEO、ガブリエル。世界を率いるリーダーの一人だ。
この映像は世界中のあらゆる媒体に配信されるという。
自信に満ちた表情の彼が世界の現状、そしてゲーゲルが創る新しい世界像について熱弁をふるった。
「2026年は人類にとって記念すべき年になる。われわれゲーゲルが新しいAIそして次世代コンピューティングを生み出して、世界を変革する第一歩の年となるからだ」
「新しい未来を導くAIの名は『Lull(凪)-Ω』。全てを統べる究極のAIだ」
「生命の源である海はいま穏やかだ。豊かな海原から、これから未来が誕生する。世界は今後『Lull-Ω』とともにあることだろう」
スピーチ自体は5分ほどで終わった。
それからはゲーゲルが描き出す、ポジティブな未来世界のビジュアルが華やかに続く。
律子はCEOの話が終わったところでマネージャーに話しかけた。
「なんかすごく若いんですね。CEO。新世代AIとか次世代コンピューターとか言ってましたね」
「本気で世界獲る気なんですね」
「AIの名前Lull(ラル)って言ってだけど、うちの近所の猫の名前みたい。ラルスっ言うんです。猫」
「それにしても、イブの翌朝こんな早くから集まってすごいです。この5分のために。アメリカもそうなんでしょうか」
「世界を獲るのかどうか知りませんが、あなたが早起き出来るようにAIに見張ってもらいたいですね」
「それとアメリカでは自宅でオンラインだそうです」
「その後、家族とディナーなのでしょう。あちらは今日がイブですから」
「日本では大晦日やお正月は家族や親類と過ごしますよね。紅白とか駅伝見ながら。それと同じです」
「アメリカなどはイブが大晦日で25日がお正月みたいなものですから。クリスマスプレゼントがお年玉ですね。」
「クリスマスに社員は集めないですね。普通、ゲーゲルジャパンもクリスマスに社員を集めるのは異例のようです。」
「アメリカでもCEOがクリスマスにこんな本格的な声明を出すことは無いようですから、オンラインとはいえ特殊ですね。それだけ本気なのでしょう」
「なんでこっちではみんな集まってるんでしょう?」
「さあ、日本だからじゃないですか」
「その場にいないと乗り遅れる気がするのでしょう。単にパーティー好きなのかも知れないですけど。あの人たちは。名刺配っている人もいます」
「今日がお正月だったら、これほどは集まらなかったでしょう。…いえ、集まったかもしれませんね。仕事だと言われれば」
「ゲーゲル詣したい人もいるかもしれませんね。神社より」
「さあ、次の持ち場です。立食会場に行ってもらいます。高橋君の指示に従ってください」
マネージャーは律子が聞いた以上のことを答えると、さっさと次の会場に向かった。
(マネージャー、AIみたいね。あんな一気に答えて。情報量がすごいわ。賢いわ)
(駅伝か。あれなんか見ちゃうわよね。紅白は、何年見てないだろう。今年はお正月帰ろうかな…)
律子がそんなことを考えていると、高橋がやってきてサンタたちに声をかけた。
「サンタの皆さんお疲れさまでした!」
「この後皆さんには立食パーティーの会場に移っていただき、飲み物などのサービスをお願いいたします」
「配膳を担当しますから、きちんと手洗いを済ませ、15分後に戻ってきてください」
「衣装はそのままです。クリスマスパーティーですから、みなさん会場を盛り上げてください」
(どこまでもサンタね。3時までサンタなのかな…)
律子はまた無のサンタになった。
カシャッ ギッ
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