1章-第14話「ランディの父」
ランディは教会の自室へと向かった。改めて見ると、先程まで入っていた牢屋の方が広かったなとランディは思った。
中ではランディの父、デリックが革鞄を黙々と作っていた。
「帰りました」
「そうか。無事とは聞いていたが…心配したぞ」
ランディはゆっくりとベッドに座った。部屋は狭く椅子など無かった。
デリックは作業を中断すると言った。
「領主の娘を叩きのめしたそうだな」
ランディは何も言わずに頷いた
「少し考えれば貴人であることは理解できたろう」
ランディは下を向いて頷いた。
「私もお前の様な性格で仕事を失った事もあった…少しは世渡りを学べ」
ランディは自らのした事を非難されたと思った。自分が間違った事をしていない、人を助ける為に戦った男を見捨てる事は間違ってなどいない。
「世渡りがなんだと言うのですか!」
ランディは声を荒立て、立ち上がった。負けじとデリックは立ち上がった。
「死罪となってもか!」
「そうです!」
ランディは流れ者として世から疎外されてきた。もはや世間より自分の思いを優先する博徒や剣客に近い性格を内面化しつつあった。
デリックはランディの燃えるような目を見た。流れ者として苦労をさせ続けた故に、こんな男に育ったのだと察した。
デリックは何も言わずにランディを抱きしめた。そうするしかなかったのだ。
「お前には死んでほしくないのだ」
「お前はここに住み、家族を作って欲しいと思ったが…」
ランディは何も言わずに頷いた。きっとランディはそんな事は出来ないだろう。とデリックは思った。
何かを言う代わりにデリックは作業台を指差し、革鞄作りを手伝う様に言った。
ランディは縫針を手に取り革のベルトを作り始めた。
作業が一段落すると、デリックが言った。
「ランディ、少し歩かんか。今日は月が綺麗だ」
デリックは木剣を2本持ち外に出て、ランディもその後に続いた。
月を追うようにして、2人で歩いた。デリックが一呼吸を置いて言った。
「お前は私の子供ではないのだ」
ランディはその事実をあっさりと受け止められた。
「そうとは思っていました。似てはいませんでしたから」
デリックは笑った。
「私が流れの武術訓練官として働いていた時、内乱が起きて…城が襲われた」
月明かりがデリックの横顔を照らした。
「泊めていた流れ者の夫婦が私を助けた」
ランディはデリックが話を続けるのを待った。
「たった一夜その城主に宿を貸りた。赤子のお前を私に託し、敵兵を切り倒し続けていた」
デリックは月を眺めながら言った。
「壮絶だった…お前の父と母は、日が明けるまで私の城に一兵たりとも入れなかった」
デリックは息を呑んで語り続けた。
「お前はそんな男になるんだろうな…」
雲が月を隠した。
「…精進します」
「そんな男になって死なれては困るから、革細工やらを、農法などを教えたのだが…」
デリックはクスリと笑った後、ランディに木剣を渡した。
二人は小高い丘に立ち木剣を構えた。ランディもまた木剣を構えた。
何かを語る時、言葉ではなく剣で2人はよく語った。二人の間では剣は言葉よりも雄弁だった。
デリックはランディに突きを放った。ランディはそれを体を横に反らし躱した。
デリックが剣を振る腕を止めた。
「武術が何の役に立つと思う?」
「村人を野盗から守っているではありませんか」
「…確かにそうだが、それだけだ」
ランディは「それだけとは?」と言って、デリックに打ち込んだ。踏み込むタイミングも完璧な物であった。
デリックは掬い取るように様にして、ランディの剣を弾き飛ばした。技量に関しては未だ底が知れないとランディは思った。
「私の武芸は自分の内にのみ向いていた」
「はぁ…」
「武功で名を上げようと思い、騎士になった。そう思った時点で、ダメだったのかも知れんな」
ランディは地面に落とされた剣を拾った。
「幾つもの屍を積み重ねて、剣術を研ぎ澄したと思った時、ふと思った…これを続けて何になると」
ランディは何も言わず、代わりに剣を構えた。
デリックは剣を構えず話を続けた。
「剣の間合いにある命を奪う事しか出来ん。私には…」
デリックが剣を払った。2連撃だった。ランディはそれを受け流した。
デリックの剣からは悲しみのような物が伝わって来たような気がした。
「剣術を覚える事が悪いことだと?剣術知らぬばかりに野盗に殺される人もいます」
慰みにもならない言葉だとランディは思った。デリックは剣を振る手を止めた。
「戦場に出て多くの人を殺した」
「……初めて聞きました」
ランディは思わず口を引き締めた。
「奪った命に見合うだけの事を私は出来なかった」
ランディは戦場に出た事は無かった。
戦場で人を殺すのと、襲いかかってくる野盗を殺してしまう事の何が違うのかランディには理解できなかった。
「狭量な武芸ばかりを追い求め、仕事を追われ、ここにいる」
「それが悪い事だと?」
ランディがそう言うとデリックは一瞬考え込んだ。
「悪い事ではない、私は自分を恥じているだけだ。誰の役にも立たない武芸を身につけた自分をな」
ランディには父の言おうとしている事がうっすらと理解できた。確かに武術と向き合った先に何かがあるとは思えなかった。
「お前は私の様になるな。人の役に立たん武芸を持った男に」
ランディは心中で「人の為か」と呟いた。
ランディは父に向かって剣を打ち込んだ。今はそうする事しか出来なかった。
舞い上がる鷹を手に入れろ 〜流れ者が女騎士の夫にされるまでの長い道のり〜 普通のジョンソン @Normal-johnson
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。舞い上がる鷹を手に入れろ 〜流れ者が女騎士の夫にされるまでの長い道のり〜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます