1章-10話「牢屋」

ランディは街の牢獄に入れられた。初日、ランディは同室の3人の内、2人の囚人たちを叩きのめした。いわゆる新入りイジメと言う物であったが、無駄であった。


15歳のランディはまだ身体が出来上がっておらず、勝てると思ったのだろう。


ランディの食事は他の囚人より多くて清潔であった。ライオネルを救った事を知った牢屋役人の単純な好意から来るものであった。


ランディは自分の食事を他の囚人にも分け、汚い食事も食べた。自分だけが特別扱いされるという事を好まなかった。


牢屋での生活は単純な物だった。起床後、街の工事や木の伐採、加工に駆り出され。日が暮れる頃に牢屋に戻される。ランディは真面目に働き、重労働に率先して名乗り出た。鍛錬の為である。


2日経つとランディは他の囚人と打ち解けていた。


「あんた何やったんだい」


「騎士を棒で殴った」


嘘としか思えない話で囚人たちは笑ったが、豪気ぶりを見るとあながち嘘でもなさそうだとも思った。


囚人の一人がポツリと語りだした。名はカラムと言った。25歳くらいであろうか。


「あんたは魔力が殆ど無いんだな」


「無いな、父には魔力が豊富だったのだが。やはり言うほどに無いのか?」


カラムは押し黙った。魔力量は必ずと言って良いほど遺伝する。ランディの魔力は母親が魔力を持っていなかったとしか思えない量だった。可能性が高いのはランディは父の実の子供ではない、という事だった。


「…あぁ、そうだよ。魔力が殆ど無いって事は、あんたには魔術医師の才能がある」


ランディは頷いた。聞いたことがある仕事であった。


「俺にも魔力がほとんど無い。魔石の密売で捕まる前は魔術医師で日銭を稼いでた」


医師には2種類いる。物理的な医療を行う医師と魔術を使う医療を行う医師である。


魔術による医療は魔力がある者が行う事は出来ない。書いた魔法陣や練った丸薬が自らの持つ魔力に反応して、上手く効果が発揮出来無かったり、想定とは違う効果が出たりするのだ。


「そうか」


「魔術医療を教えてやろう」


「何故だ?」


「あんたは良い人だ。なに飯の礼だ」


カラムはそれなりに義理堅い男であった。自分だけが一方的に施しを受けるという事が嫌だったのだろう。


ランディもまたそれを覚えれば、武術だけではなく医療でも村に貢献出来ると考え、礼を言った。


ライオネルが言った村の為に出来ることが一つ増える。とランディは考えた。


その日からランディは地面に字や魔法陣を描いてもらい魔術医療を学び始めた、囚人で病気をしたものが入れば、カラムの治療を見学した。


ある日、カラムは囚人から賄賂を貰う牢屋役人を見て言った。


「囚人から賄賂を貰わねばならんとわな」


「何だと貴様!」


牢屋人が鍵を開け、ランディのいる牢屋に入ってきた。カラムとその牢屋役人を見て言った。一触即発の雰囲気であった。


「実際のトコいくら貰ってるんだ。給金は」


ランディがそう言うと牢屋役人がランディを見た。間が抜けたのか牢屋役人は言った。


「月に金貨15枚だ」


「少ないな」


実際の所、オルマンド家がある街、マウントニアで暮らすにはかなり安い金額であった。


「ずっとそうなのか?」


ランディがそう言うと牢屋役人は座り込んだ。


「昔はもう少し多かった。年々減ってんだよ」


「上司が抜いてんだろ?」


カラムの言葉に牢屋役人は首を振った。


「上司もここの署長だって、そんないい生活をしてるワケじゃねぇ」


「じゃあ、何だってんだよ」


「知らねぇよ、よく分からねえが真面目にやっても給金が減ってくんだ」


ランディはポツリと呟いた。


「国が悪いのか?」


牢屋役人は首を上げて頷いた。


「そうだ。国が悪い」


カラムは頷き、話を続けた。


「最近は税ばっか高くなりやがる。その金が何処に行ってるのなんか分かりゃしねぇ」


牢屋役人は膝を叩き語った。


「署長の上にいる貴族のガキどもが色街に入り浸ってる話も聞いた。働きもしねぇのによ、そう言う下だらねぇ事に俺達の金が行ってんだ」


ランディは、不平不満をほかの囚人含めて牢屋役人と話していると、その牢屋役人と共に皆で懲罰房にぶち込まれた。


懲罰房は流石に堪えたからか、その後は不平不満を言わずに鉱山で働いていた。


牢屋役人がランディを見て言った。彼は位の高い牢屋役人の服を着ていた。


「懸命に働くな」


「囚人ゆえ」


牢屋役人は笑った。懸命に働く囚人などいないからだ。役人は続けた。


「お前はまだ裁判もしてないし、罪状も決まっていない」


「そうですか」


「領主様のご厚意でお前はすぐに出られるだろう」


ランディはツルハシを振る腕を止めた。何か領主へ好かれることをしただろうか。娘を棒で打ち据えて、衛兵も棒で打ち据えた。ランディは顎に手を当てて考えた。


「……ふむ」


「そんな悩む事ではない。そのままの意味だ」


ランディは深く考えるのを辞めた。再びツルハシを振り上げた。


「牢屋を出たらここで働かないか」


ランディがツルハシを振り下ろした。轟音を上げて岩が粉彩された。


「今なんと?」


「ここで働かないか?流れ者で定職も無いのだろう?」


牢屋役人は至って真面目な顔をしていた。


「何故ですか?俺は囚人です」


「向いてると思ってな。牢屋役人が」


牢屋役人はランディの振る舞いを見ていた。自分だけ優遇される事を嫌う廉直さ、囚人とすぐに打ち解けた気さくさ、何より腕っぷしが良い。純粋に向いていると思えたのだ。 


「村に父を残しております。もう暫くは父と共に居たいのです。それに…囚人が牢屋役人とは周りの人は認めがたいでしょう」


ランディはそれとなく断った。牢屋役人はランディの目を見た。真面目な目をして言っていた。


牢屋役人は「そうか」と言うとそれ以上は何も言わなかった。あまり無理に勧誘すればへそを曲げてしまうと思ったからだ。


牢屋役人は「頑なな流れ者か」と心の中で呟いた。

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