1章-第7話「熱気」
リディアは街に入り、町人達の様子を伺った。口々にライオネルの事を言っている。
民の為に義勇軍を作り略奪団を倒した男が、民の信心を集める事は当たり前であった。
母であるエリシア直轄の騎士がリディアの元にやって来た。
「ライオネル様を連れた男が、商人と言い合いをしております」
リディアは首を傾げた。意味が分からなかったからだ。ランディはどれだけ戦い好きなのだと思った。
「恐らくその商人が演説をして、町人達を扇動しているのでしょう…名はカーン・ハン、山の民の出自です」
リディアは記憶を辿り言った。
「ライオネル卿の義勇軍へ資金援助をしていたな…。よく分からない交友関係が多いな、ライオネル卿は」
町人達は熱に浮かされたように野次を叫び、「ライオネルを解放しろ」と叫んでいた。
この浮かれようはランディの行動だけではなく、やはりカーンとかいう商人が扇動している。リディアはそう思った。
衛兵の案内でそこまで向かう時、ランディの顔面に拳が叩き込まれるのが見えた。
騎士学校の徒手訓練では飛んでこない様な打撃であった。
ランディも辛そうに地面に手をついていた。演技である事はリディアでも何故か分かった。
ランディはカーンに向かって蹴りを放った。カーンはそれを受けとめるとランディを振り回し投げた。
投げ終わりにカーンと目が合った。やはり目の光が強かった。カーンはリディアと目が合うと逃げる様に走り去った。
リディアは顔を上げたランディと目があった。
野次馬の民衆たちが不安そうな顔でリディアを見つめていた。
ランディは地面に落ちていた棒を拾い上げこちらを向いた。
リディアは剣を抜き叫んだ。
「言葉は不要か!」
自分の父の血がそうさせるのか、リディアはランディに向かって走っていた。
ランディはリディアの右手に棒を打ち込んだがリディアはそれを弾いた。
ランディの首筋に剣戟が掠る。リディアの喉を目掛けて、ランディは突きを放とうとした。
その時だった。ひときわ通る声で男が叫んだ。
「辞めんか!!」
聞きなれた声、父であるグレゴールの声であった。
あまりの気迫にランディは棒を振る手を止めてしまった。リディアもまた同じであった。
「誰だ!!何の真似だ!!!」
ランディは戦いで頭に血が上っていたのか、そう叫んだ。それを見たリディアがランディに拳を叩き込んだ。
「私の父!グレゴール・オルマンドだ!!」
グレゴールは朗らかに笑った。
「旅の者が衛兵を叩きのめして回っていると聞いて来てみれば…」
ランディはそう聞くと叫んだ。
「人の為に戦った男、ライオネル・エドモンドを捕縛した!!この男は裁判にて国王に弁明したいと言っている!!」
町中に響き渡る声でランディは叫んだ。呆気に取られている周りの人間を気にせずランディは続けた。
「この国は臆病者の集まりだ!たった一人の男を恐れている!!賊に苦しむ人々を救った男をなぜ恐れる!!」
町人達も思い思いに野次を飛ばし始め、その熱気が大きくなって行く。
ランディの罰を恐れぬ発言が人を動かしたのか、何が町人達を突き動かしたのかリディアには理解できなかった。
ライオネルは感心したように笑っている。
グレゴールもまた笑っていた。そして町中に響き渡る声で叫んだ。
「承知した!!グレゴール・オルマンド、人を救った英雄を国王陛下の元へ連れて行くことを約束しよう!!!」
町民たちが歓声の声をあげる。
そう叫んだあと、グレゴールは声のトーンを落として言った。
「ただし、衛兵を叩きのめした男には相応の罰を受けてもらわねばならんな」
リディアがグレゴールに駆け寄った。
「そんなことをしては…」
グレゴールはリディアの言葉を遮った。
「民を救うのが貴人の責務ではないか。リディアーナ」
その光景を見たランディは片手で棒を勢いよく振って、へし折った。
そして何も言わずにその場に座り込んだ。クロスボウを構えた衛兵がランディを取り囲み始めた。
「何だそれは?」
「黙れ」
ランディの頭が叩かれ、ズタ袋が被せられた。
リディアはライオネルの元へ向かった。ライオネルはリディアに殺されそうになった事を気に留めず言った。
「天は私を助けた様だね」
リディアは白々しい気分になった。
「何処まで計画の内ですか?」
「計画など無い、志を共にした友がいて、彼らが私を助けたのだ」
「あの流れ者も友でしたか?」
リディアがそう言うとライオネルは一瞬考えた。
「今日初めて出会った。天の巡り合わせだ…彼もまた私の友になるかも知れない」
騒ぎ立てる町民を見渡しながらライオネルは言った。
「君には志を共にする友がいるか?」
「何を言って…」
リディアは思わず俯いてしまった。
臣下を得るときも、何かの利を提示した。利害関係を用いた関係しか、リディアは築けなかった。
自分の為に命を投げ出す部下はいる。それは、自分が貧しさから救ったり、不遇の地位から抜擢したりと、『恩』を売ったから、そうしてくれるに過ぎなかった。
『志』を共にする『友』である。それだけの理由で命を顧みず自分を助ける様な人間はリディアの周りには一人もいなかった。
リディアは思わず唇を噛み締めた。
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