1章-第6話「志の目覚め」

街の入り口に着くと馬を降りて近くの宿場に馬を預けた。ランディは再びライオネルの手に縄を結んだ。


「 このまま逃げて流れ者として生きてもよいだろう。なぜ裁判に拘る」


ライオネルは恥ずかしがる事なく堂々と言った。


「この国を変える為だ」


ランディは「そうか」 と呟いた。羨ましい生き方だとランディは思った。羨ましいとは思ったが、自分が何のために戦うのかさっぱり分からなかった。


「ランディ。何故ここまでするんだ」


「分からん」


ランディの心中は整理できていなかった。ロクに読み書きを習っていないランディは、自分の心中を正確に表現できる言葉を持っていなかった。


察したのかライオネルは言った。


「義憤か?」


「義憤?」


「正義のために怒ることだ」


そう言うとランディは小さな声で話し始めた。


「騎士たちは税を取り立てるばかりで、村を守ることをしなかった」


ライオネルは何も言わず、ランディが言葉を続けるのを待った。


「苦しむ人を救うお前を見て、良く思ったのかもな」


ランディは続けた。


「だが、俺が怒った所で何になるんだ」


「その怒りを持ち続けろ。いつかは同志が増える」


ランディはピンと来ていない顔をしていた。父と共に流れ続けて友や同志などと言うものとは無縁だった。


「志の為に集まる仲間の事だ。怒りを覚えこの国を良くしたいと思う仲間が出来る」


「俺は流れ者だ。国の事など」


「お前もこの国に住んでいるんだぞ?」


ランディは黙って頷いた。流れ者とはいえ、この国に住んでいることは確かだと思えたからだった。


「……確かにそうだ」


「じゃあ、今住んでる村のことを考えろ。お前は村のために何ができる?帰ってよく考えるんだ」


ランディは俺は戦う事しか出来ないと言おうと思ったが、やめた。言えば自分の中の何かが決まってしまうと思ったからだ。


街の入り口の門に差し掛かると門番の衛兵が言った。


「あの、その方は…」


ランディはライオネルの手配書を見せた。


「野盗を連れて来た」


「私が連れて行きます。報酬はここで」  


ランディは首を振った。


「一緒に行こう。この野盗は正式な裁判を受ける前に殺される事を恐れている」


衛兵はランディの気迫に押されたのか頷いた。


「…わかりました」


他の衛兵がその光景を見て口を挟んだ。装備がほかの衛兵より良く、上官であることが伺えた。バカかコイツらと言いたげな目をしている。


「おい、待て!そんなことは認められん。エリシア様のお達し…」


片方の衛兵がそう言うとランディは棒をその衛兵の腹に叩き込んだ。衛兵は吐瀉物を撒き散らしながらその場に倒れ込んだ。


ライオネルはその光景を見て言った。


「君はめちゃくちゃだな」


この後のランディの行動もめちゃくちゃであった。ランディは近づいて来た衛兵に「この野盗は裁判に行く前に殺される事を恐れている」と言い、「エリシア様の命令で引き渡せ」という衛兵には棒を叩きこむのだ。


そして、引き下がる衛兵に彼の護衛を頼んだ。彼を守る衛兵はライオネルの行為を尊敬している事を理解していたからだった。


行列を作って歩く自分たちを見て町人達が熱気の様な物を発しだしたとランディは思った。


その無法ともいえる行為を繰り返し続けていると大男がランディに向けて叫んだ。


「その男をどこに連れて行く!」


ひときわ通る声だった。


男の目は赤く、顔が日に焼けていた。首から商人用の通行証をぶら下げていた。商人であることは確かなのだが、大柄な体躯と精悍な顔が商人らしく見せていなかった


「正当な裁判を受けれる場所だ」


その男は大きく笑った。そして、ランディではなく後ろの多くの町人たちに語りかけるように言った。


「そんなものはこの国には無いだろうが!」


ランディはライオネルを見た。ライオネルは何も言わなかった。


「無いのか?」


「人の為に戦った者を捕まえ殺すような国だ!」


野次馬に来た民衆の一人が「そうだ」と叫んだ。また一人、また一人と同意の声を叫んだ。


「お前!なぜその男を捕まえた!!」


大男がランディを指差した。ランディもまた叫び返した。


「村の為だ!」


大男は笑った。


「村が金を貰えると!」


ランディは黙って頷いた。それを見た大男が剣を地面に捨てた。


「恥知らずは殴らなければならんな」


大男が近づいてくるとランディもまた棒を捨てた。  

町人達が歓声の声を上げた。まるで自分は悪役ではないかとランディは思ったが、事情を説明する気にはなれなかった。


世話になった村の為に働いた事を『恥知らず』と言われた事に腹も立った。


ランディは右足で下段の蹴りを放った。大男はそれを体軸を垂直に保ったまま、それを避けた。


右足を戻す間も無く、ランディの顔面に右拳が突き刺さった。重かった。今まで受けた事のない衝撃だった。


ランディはふらついて地面に手をついた演技をした。大男が悠然と近づいて来る。ランディは左足の蹴りを放った。


大男は読んでいたとばかりにランディの蹴りを脇腹で抑えるとランディを振り回し投げた。


ランディは飛んだ。野次馬たちがランディを起き上がらせた。


顔を上げると大男は走り去っていた。代わりに先ほどランディが殴り倒したリディアが群衆をかき分けこちらに来ていた。

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