1章-第4話「民の為に戦う男」
ランディはライオネルを地面に下ろすと、革の水筒で水を飲んだ。両手は前で縛ったままであった。
「君は頭がおかしいのか?」
「さっき聞いたな」
「あの方はオルマンド家の娘だ!名はリディアーナ!公爵令嬢だぞ!!」
当然ランディにもオルマンドと言う名前に覚えがある。この辺を治める大領主の名であった。現にライオネルの手配書にもオルマンド家の家紋が記してあった。
ランディは参ったなと心中で呟いた。
「お前を殺そうとした。裁判を受けたいのだろう?」
ライオネルは呆れた様に笑った。
「改めて自己紹介をする。ライオネル・エドモンド、グレゴール様の騎士だ」
ランディはライオネルに苗字があり、身分の高い人間である事を知り驚いた
「身分の高い人間だとは思わなかった」
呑気な事を言うランディを見て、ライオネルは真剣な声で言った。
「君はさっきここら一帯を治める最高権力者の娘を打ちのめしたんだぞ?どうするつもりだ?」
ランディは「ふむ」と言って顎を撫でた。
何も考えていなかった。目の前の人間が、自分の捕まえた野盗を殺そうとした。いかに野盗とはいえ、その場で殺されるのは道理に反する。村の裁判所にて正式に投獄、労役や処刑なりの罰が下されるべきである。
概ね野盗は労役に処させる。死して山の肥やしになるより働き人の為になる方が良いだろう。
言い訳は色々はあるが、ライオネルは自分の棒術を称賛し、裁判を受けたいと言った。高い志を持っていて、気高い男に思えた。死ぬべきではない男だ。
それだけで、ランディにとって目の前の貴人を打ち倒す理由になってしまうのだ。
「 生まれつき流れ者だ。問題は無い。その前にお前を『正式な裁判所』に連れて行かねばならんがな」
あまりに豪気な受け答えにライオネルは笑った。
ランディは山を下り村へ戻った。日はとっくに沈み、辺りは真っ暗であった。
村長の家の裏口に周った。
扉を2.3回叩くと、村長の孫娘が出てきた。
「ランディさん。こんな夜中にいったい…」
ランディは縛ったライオネルを見て言った。
「野盗を捕まえました。緊急の用件です」
普段はこんな夜更けに来る事がない事を知っているからか、孫娘はランディを家の中に挙げようとした。
「山中を駆け回りましたゆえ汚れております。玄関口までで結構です」
ランディがそういうと孫娘は村長を呼びに行った。
「ランディ、いったいこんな夜更けにどうした?」
「野盗を捕まえました。この野党は正当な裁判を受けたいと申しております。名はライオネル・エドモンド。あと、グレゴールという方の騎士みたいです」
そう聞くと村長は飛び上がるように驚いた。
「ライオネル・エドモンド様!あのライオネル様ですと!」
「何をそんなに…」
「あの魔族と野党の盗賊団を討伐をしたライオネル様だ!!」
ピンと来てないランディを村長はぴしゃりと叩いた。
「そんな高名な人間がなぜ野盗として手配されているんだ?」
村長はもう一度ランディを叩いた。
「国王の許可なく500人以上の軍を指揮するのは違法なんじゃ!少しは政治に興味を持て!!」
ライオネルは村長の言葉の後に付け加えた。
「国王の許可を待っていては民が死ぬのだ」
ランディは心の底からこの男を助けてよかったと確信した。
そしてライオネルは話を続けた。
「彼は私を助けるために、私を殺しに来たオルマンド家の長女と護衛二人を棒で打ちのめしました」
村長はため息と頭を抱え床に座り込んだ。ランディは気にせず言った。
「彼に正式な裁判を受けさせたいのです。どこに行けばよろしいでしょうか」
村長は立ち上がりついてくるように言った。二人がついて行った先は馬小屋であった。
「本来ならリューズ男爵に話を通したいのだが…あの方はもう限界ギリギリまで働いてるのでな、これ以上仕事が滞ると儂らが困る」
村長はぶつくさ言いながら、ナイフでライオネルが縛られていた縄を切った。
「グレゴール様がいる街にいきなされ、直談判しか道はないでしょう」
村長はピッチフォークの金具を外し棒だけにしてランディに手渡した。
「形式的にはランディが領主に直接罪人を手渡したという事にすれば、法的に問題はありますまい…それと、ランディは馬に乗れません。頼みますぞ」
そういって村長は農耕馬を指差した。ライオネルが馬に乗った後、村長はランディに言った。
「お前と会うのは最後になるかもしれん」
「その時は、父を頼みます」
そう言うとランディはライオネルの後ろに乗った。村を出てしばらくするとライオネルが言った。
「馬の後ろに乗せるのは美しき令嬢が良かったね。男じゃなくてね」
ランティはそれを気にせず言った。
「なぜ、人の為に戦った人間が殺されるんだ?」
「私は国王の許可なく軍隊を作り、王国の他領主たちの民も救った。彼らのメンツも潰したのだ」
「それが死ぬ理由か?お前もオルマンド家の騎士なんだろう?」
ランディは納得いかないと思ったが、理解できないという感情の方が大きかった。政治や法律などは教わってないのだ。
「政治だよ政治、オルマンド領ではグレゴール様とエリシア様で対立があるのだ。夫と妻での対立というのは…」
「……ふぅん?」
ランディのあまり理解しなそうな反応を聞くとライオネルは話を辞めた。
「エリシア様のお気持ちも分かる。夫を支えたいというお気持ちが強いのだろう」
ランディには家族同士で対立している意味が分からなかったので、何も言わなかった。
「ま、何にせよお前を殺しても、賊が消えるわけではあるまい」
ライオネルは政治をバッサリと無視したランディの反応を聞いて笑った。
「優しきグレゴール様は私を罪人として捕まえ、裁判の中で国王に直談判する機会を作ってくださるでしょう」
「良い領主様だ」
「そんなことをしては他の領主たちの面子を潰すことになる。タダでさえ政治が嫌いなグレゴール様だ。他の領主に政局で総攻撃をされては公爵家が持たんかもしれん」
悲しい声でライオネルは言った。
「私は死んでいた方が都合が良いのだ」
ランディは何も言わず、この男を領主の元まで届けることを決意した。
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