1章-第2話「本物の貴族を棒で殴る」

ランディは「志によって人の心を盗んだ」という男の言葉を心中で反芻して言った。


「どういう意味だ?」


「民が力を合わせれば、賊徒や外敵を倒す事が出来る。騎士や貴族の力は必要は無いと思わないか?」


ランディは少し考えた。流れ者として生きてきて、身分だなんだという事を考えた事が無かったからだ。


「村人同士で団結して戦う事など出来んだろ。家の若い男が死ねば、跡継ぎがいなくなって農地は他の村人に渡る。戦いは俺のような流れ者や騎士やらに任せるのが一番だろう」 


「そこだ!民が守りたいと思える場所が作れれば良いのだ!家よりも大きいものだ!」


ランディは首を傾げた。いまいちピンと来なかったからだ。


「家よりも大きいもの?」


「民が守りたいと思える国を作るんだ!そこには騎士や貴族も王もない!」


ランディは笑った。あまりに荒唐無稽な話に思えたからだ。


だが、不思議と否定する気にはなれなかった。


「君、名前は?」


「ランディ。お前は?」


「ライオネルだ」


ランディは賊徒改め、ライオネルと暫く談笑を続けた。ランディは自らの生い立ちの事を話して、ライオネルは自らの理想について語った。


ランディはライオネルの理想についてはよく分からなかったが、志の為に働きたいという男を見るのは気分が良かった。


暫くすると、馬に乗った女と男が二人通りかかった。女は純銀の鎧を着ており、供回りの2人の男もその女程では無いが仕立ての良い鎧を着ていた。


女はランディより少し年上に見えた。


純銀の鎧には、大領主であるオルマンド家の紋章があり、流石のランディにも高位の貴人であることは理解できた。


女はランディが捕まえたライオネルを見ると馬をとめ降りた。供回りのうち一人も馬を降りた。


ランディは貴族に対する礼儀作法など知らない。ただ、ぽかんとそれを見ていた。


ライオネルが「リディアーナ様」と呟いた。


「知り合いか?」


ランディの問いにライオネルは答えなかった。


女はライオネルに近づいて行くと剣を抜きはじめた。


ライオネルは諦めたように目を閉じた。


ランディはリディアーナが半分ほど剣を抜いた所で、彼女の右手に棒を置くことでそれを止めた。


貴人に対してかなり無礼な行為であった。


リディアーナはランディを叩き斬ってしまおうとしたが、そうやすやすと殺せる男ではないことは理解し、辞めた。


ランディは「この男は捕縛し村の騎士に突き出す男だ。なぜ殺そうとする?」や。「この男を捕まえれば、金を貰い村の生活が楽になる」、「彼は裁判を受けたがっている」などの言うべき言葉があった。


ランディは挨拶もなしに目の前の人間を殺そうとする人間にかける言葉は持ち合わせていなかったし、何かこの女にも事情があるのだろうとも思った。


だが、ランディはライオネルはここで死ぬべき人間ではないとも思ったのだ。自分がそう思ったら止まれない。ランディの性分であった。


「言葉は不要ですなぁ」


顎を撫でながらランディがそう言うと、供回りの男二人が不思議な顔をした。


3対1かとランディは心中で呟いた。山賊相手なら10人だろうと纏めて相手をした事があった。 


鎧を着込んだ騎士達を3人纏めて相手をするのは初めてだ。ランディの胸が高鳴るのを感じた。


ランディの棒術は尋常ではない、生身や革鎧の人間に全力で打ち込めば必ず絶命する。故に人に全力で打ち込んだ事は無い。


彼らなら俺が全力で打ち込んでも大丈夫かも知れない。ランディは高鳴りを抑え、打ち込む覚悟を決めた。


リディアーナがロングソードを素早く抜くと、ランディは彼女の右手を棒で打ち据え、剣を叩き落した。


「御免!!」


馬から降りた供回りの男の鳩尾を棒で勢いよく突いた。男は2mほど吹き飛んだ。


そのままの勢いで体ごと回転し、棒を馬に乗った男に向けて叩き込む。この間3秒弱。


馬の悲鳴が上がり、男は落馬した。鎧に叩きつけられた樫の棒は砕けた。


リディアーナが左手で地面に落ちた剣を拾い、向かってくる。右手はランディの打ち込みで痺れていた。


ランディは地面すれすれまで体勢を低くして、剣戟を躱し、その体勢のまま足払いを放った。この攻撃で倒せなかった人間はいなかった。


足払いと言うよりは猪か何かが突っ込んできたとしか思えない様な攻撃を受け、リディアーナはその場で半回転した。


その瞬間に近くの茂みから、黒い革鎧を着た女が飛び込んできた。


短剣を持っている。


顔が怒りに燃えているが、身体はリラックスしていた。殺人に慣れている人間か、相当なやり手だろう。


ランディは地面の土を女の顔面目掛けて蹴り込んだ。


女は一瞬だけ動揺した。武人ではない、殺人慣れしただけの人間だ。ランディはそう考えた。


女の右目に土が入ったようだったが、踏み込んで短剣の突きをランディに放った。


踏み込み過ぎだ。ランディはそう思いながら、突かれた短剣を避けながら女に向かって踏み込んだ。


短剣が突き終わると同時に女の顔面に右肘を叩き込んだ。鼻血が出て、鮮血が舞った。


ランディは女が倒れるのを見もせずにライオネルを肩に担ぎ、森の中に飛び込んだ。


「君は頭がオカシイのか!!」


ライオネルがそう叫んだ。ランディは気にせず山中を駆けた。

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