第一章

1章-第1話「貴族らしき男を棒で殴る」

ランディが15歳になったばかりの冬、一人の貴族らしき男を打ちのめした。


手配書の人相書きと同じ顔で、手配書通りの紋章が入った軽鎧を着て、汚れながら放浪していた。


剣の太刀筋も良い風に思え、軽い火の魔法も仕っていた。何かの教育を受けている事は確かだった。


年は30歳後半だろうが、何処か威厳の様な物がその男にはあった。


その賊徒は「うぅ…」とうめき声を上げ、地面に蹲っている。


ランディは流れ者である。住まわせて貰っている村から賊を討伐し村を守って欲しいと依頼されているのだ。


騎士や小領主たちは村から税を取り立てるばかりで、村を守る事など殆どない。


冒険者ギルドの粗暴で金のかかる連中には頼むほど村に余裕がある訳ではない。


ランディの父、デリックが一人でその依頼をこなしていたが、ランディが14歳になった時、「我らは所詮流れ者、こうする事でしか生きられん」と言い、樫の棒を手渡した。


ランディの父は昔どこかで騎士団の訓練教官をやっていた様だった。不器用な男で息子のランディとの会話は武器の訓練でしか出来なかった。


ランディはそれらについては決して父には聞かなかった。何か言われずとも自らの出自に何かある事は幼いランディにも察する事ができた。


物心ついた時には母はおらず、漁網編みや農作業、革製品の加工などの日雇い仕事で父子ともに日銭を稼ぎ、村から村へ渡り歩いた。


今はマリントレイル村の教会小屋に住んでいた。2年位住んでいる。流れ者に対して破格の厚遇であった。


ランディが初めて、3人の野盗を打ち倒し縛り上げ、村長に突き出すと村の人間は大いに喜んだ。


戦いの高揚が残る身体でランディはそれを見て自らの生き方を悟った。賊徒、悪人を打ち倒し、路銀を稼ぐのだ。


こうしてランディは父と村の用心棒をして、自らの居場所を見つけていった。


ランディは水を得た魚の様に村の周りに出る賊徒たちを打ちのめし続けた。父に教わった武芸を試す事が楽しくもあった。


半年もしない内に、村の近くに潜む盗賊団から『棒鬼』と呼ばれることになった。


ランディは先ほど打ち倒したばかりの貴人らしき賊徒に意識を戻した。


その賊徒は軽鎧を着て、簡単な火の魔法を使った。


普段は野盗などが人相書きや居場所の目処などと共に捜索される事など無かった。名前なども分からず、村の村長も不可解だとランディに言っていた。


ランディは深い事を考えない。領主から村が金を貰い、村の人間の生活が楽になればそれで良かった。


魔力を殆ど持たないランディには、魔法の効き目が薄いので戦いには問題は無かった。


しかしやはり、魔法を使い軽鎧を着ている事に疑問を覚えずにはいられなかった。元より、流れ者の自分が何かに疑問を覚えても仕方が無い。


ランディは狼煙をあげ、野盗を捕まえた合図を出した。じきに、村人が引き取りに来るだろう。


意識を取り戻した賊徒はランディを見て言った。


「若いのに素晴らしい腕だ。何処で覚えたんだ?」


「父から習った」


「最近の若い騎士よりも腕が立つ」


野盗とは思えぬ気さくさで男は語った。まるで自分が捕まったことを気にしていない様だった。


「最近の若い騎士連中は、親のコネで役職に就いて賄賂や軍費を横領することしか考えていない…この国で仕事をしているのは身分の低い騎士や男爵たちだろうな」


男は不満の表情を浮かべながら、語っていた。まるで、現場を見てきたような口ぶりであった。


「賊徒が政治批判とは…何者なんだお前は」


「秘密だ。タダの野盗と思ってくれて構わない」


別の形で会えば、友となる事も出来るのかも知れない。とランディはふと思った。


迎えを待っている間、賊徒と言われた男は何も言わなかった。野盗というのは大抵命乞いが取引を持ちかける物であった。


「金は無いのか?あれば俺が逃がすかも知れんぞ?」


ランディがそう言うと、賊徒は笑った。


「君は金を受け取る様な男に見えないね」


ランディは頷いた。


「私は負け、君は勝った。大人しくお縄になろう」


賊徒はそう言うと黙り込んだ。ランディは少し同情し賊徒に言った。


「望みは?」


「正当な裁判にて証言がしたい」


「王都の裁判所に行けば良いだろう?」


「この辺りを治めるリューズ男爵は仕事人だ。私が暗殺をされずに裁判を受けられる様に取り計らってくれると思った」


ランディは「賊徒が暗殺を恐れながら、裁判を受けたがるとはおかしなことだ」と思いながら「ふむ」と言った。 


「お前は何を盗んだんだ?」


「人の心を盗んだ」


ランディは笑った。


「俺に捕まる様な男が人の心を盗めるとは思えんな!」


賊徒は笑いもせず真剣な表情で言った。


「技術や力ではない、志によってな」


ランディは笑うのを辞めた。男の目が真剣な表情を浮かべていたからだ。


「志」という言葉がランディの心の痒いところを撫でたような気がした。この世に生を受けて15年、夜の理不尽に不満を覚える事あれど、その様な事は考えた事がなかった。


ランディは縛られた男の目を見つめた。強い光をはなっていた。

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