カテゴリ3 車輪眼の少女と滅びの真実

 それは、まるで車輪のようだった。あの時、目が合ったモモノの瞳の中には確かに輪がかかっていた。そこには、何かの文字が刻まれていて、俺は最初に目が合った時、一瞬誰か分からなかった。それ位に彼女の姿は普段と違っている。


 現に今も、天使と相対しているモモノの後ろ姿は、何処か別人のようだった。


 銀色の髪の毛が風に靡く。


「ほーちゅん、周りに他の天使は?」


 モモノの声は、凛としていてまさに戦士のようだった。


「……いないお。目の前にいるソイツだけなんだお」


 ……今、どっから声がした? 物凄く野太いオタクのおっさんみたいな声がした気がする。


 他に誰かいるのか? けど、何処を見渡しても人の姿らしきものは見えない。隠れているのか? いや、そんな気もしない。そもそもモモノには通信機のようなものもついていない。


 だとすれば……何なんだ? いや、てかそもそも――。


「なんで、アイツ刀を持っていやがるんだぁぁぁぁぁ!」


 しかし、俺のツッコミとは別に天使とモモノは剣と剣を構えて睨み合う。それは、まるで目の前で映画の殺陣を直で見ているみたいだった。


「……切札騎士か? とんだ邪魔者が入った」


「あら? 私達的には、貴方達の方がよっぽど邪魔なんだけど……」


「モモノ……?」


 何を言っているんだ? というか、どうしてソイツと平気に話せるんだ? いや、ここは何処なんだ? 俺は今、何を見ているんだ?


 すると、天使は血走った恐ろしい目でモモノを睨みつけて、恐ろしい怒った表情で剣を掲げて襲い掛かる。


「……お前もまとめて、私の黒い雪の塵にしてくれる!」


 直後、大きな翼を羽ばたかせてモモノへ襲い掛かる天使。その切っ先が彼女の体を捉えるが、彼女はそれを次々とかわしていく。


 まるで動きを読んでいるみたいだ。凄い。アイツ、こんな身軽だったか? いつも体育の時間は……どちらかというと目立っていなかったような気がする。ダメだ。記憶にない。


「ほーちゅん、この空間は後どのくらい持ちそう?」


「ざっと計算した感じ、もう5分も持たないお」


「……なら、あんまり時間をかけていられないわね。ほーちゅん、あれ準備して!」


「全く、人使いが荒いお。モモたんは」


 モモノは、刀を振り回しながらも確実に敵の攻撃を避けている。こう言うのを見た事がない俺でも分かるのだが、アイツ……敵の隙を的確に撃っている。スピードとかは、全部相手の方が上なのにモモノも勢いとか全然負けていないのだ。


「マジに……誰なんだ? これ、夢なのか?」


 すると、ぶつかり合いの末に天使から距離を取っていたモモノが短パンのポケットから一枚のカードを取り出した。


「あれは……タロット?」


 なんで、あんなものを……。


 モモノが取り出したタロットが輝きだす。丸いサークルが描かれたカードだった。


 まるで、今のモモノの目みたいな……。


「出てきなさい! 私の眷属!」


 と、そのカードが輝きと共にモモノの両隣に3匹の動物の姿が生まれる。その姿は、まるでサルと犬とキジか?


 大きな牙と狼のような見た目をした犬が天使を睨みつけながら鋭い牙を剥き出しにしていた。

 そして、ゴリラと同じくらいの巨体を持った大ザル。見た目は、日本サルなのにドラミングしている……。

 最後に、何故か烈火の炎をその身に宿したキジが空中を縦横無尽に飛び回っていた。


「桃太郎……だな」


 カードの中から出てきた? 3匹は、そのまま天使に噛みつき、ひっかく……。



「今よ! ワン太! サリー! キジりん!」


 犬とサルが両サイドから天使の両腕に向かって襲い掛かる。犬が顎で天使の左腕に噛みつき、サルはがっしりと天使の手を掴む。


 その隙に炎纏いしキジの上へとモモノは、高くジャンプした。キジは、モモノを乗せたまま空を舞い、サルたちが抑えている天使の元へ特攻。


 モモノの刀が奴の胸を貫く――。


「やった?」


 俺も勝ちを確信した。その直後、天使の姿が黒に染め上げられていく。


「……これで、勝ったと思うな。ふふふ……」


 それは、まるで闇のような黒い黒い靄の中に包まれるみたいに。天使とは言えないような不気味な結末だ。どちらかというと、悪魔みたいな……。そんな怖さだった。


 まじで、モモノが来てくれなかったら……危なかった。いや、それにしても……。


「……何は、ともあれ。倒せたみたいね」


「うん。でも、またいつ姿を現すか分からないお」


 タロットが喋った? その時、彼女の両隣に集まって来た3匹の動物達にモモノは、カードをかざした。


「……皆、戻って!」


 彼女の掛け声とともにサルと犬とキジは、カードの中へ戻っていく。


「その時は、また倒せばいい。とにかく、今はこの場所を元に戻さないとね。ほーちゅん、よろしく!」


「まっかせて! モモたん!」


 モモノは、カードに向かって話しているみたいだった。あのタロットは、一体何なんだ? それにここは、一体どこだ?


「おい。お前……モモノだよな?」


「……」


 何処かへ行こうとしている彼女に声かけて引き止めようとした。しかし……。


「今日の奴、ランク的にはそこまで高くなさそう……。どれくらいだと思う?」


「分からないお。……ただ最後のあれは、もしかすると奴の裏に上級の天使が隠れているかもしれないお」


「上級。……もしかして、ランクKの?」


「いや、そこまでの反応は今の所ないお。けど、もしかするとJランク位の奴は、あるいは……」


「いずれにしても警戒は、怠れないわね」



「おい! 無視すんなよ! モモノだろ? お前……どうしたんだよ? その恰好。てか、さっきから誰と話してんだ?」


 アイツは、俺の姿を見るや否やくるっと体を180度回転させてそっぽ向くと、再びカードと専門的な感じの話を始めた。


「……ほーちゅん、そろそろできた?」


「うん。結界内全ての歪みと分岐点を確認したお。これより、修復に入るんだお」


「お願いね」


 モモノが返事をした次の瞬間、眩しい光が視界を遮る。反射的に目を閉じていた俺が、ゆっくりと目を開けるとそこには、いつもの町の姿があった。


 止まっていたはずの人々は、歩き出し、鳩は羽ばたいており、音も空の色も元通り。黒い雪は、いつの間にか白い雪に変わっていた。



「……何だったんだ? さっきのは……」


 驚いている俺が後ろを振り返ると、そこには歩きながら黒い髪の毛を束ねてサイドテールを作っているモモノの姿が……。



「あっ、おい! 待てよ!」


 目が合った。いつも通りの黒い目。何十年も見続けていたあの目だった。髪の色もいつの間にか元に戻っている。

 俺は、慌ててモモノの前に立つと彼女は、面倒くさそうに腕を組んでいた。


「何よ?」


「いや、お前……怪我とかないのか?」


 モモノは、心底面倒くさそうに舌打ち混じりに俺を睨みつけてきた。


「はぁ?」


 この後、聞きたい事それだけぇ? という空耳が何となく聞こえてきたので俺は、続けて尋ねた。


「お前……さっきのは、なんだよ? 血の色した空とか黒い雪とか……人が皆消えて……空が割れて天使が出てきた! お前も……あれ? さっき持っていた日本刀みたいなやつは……いや、それよりなんだったんだよ! あれは! あんな天使みたいな見た目の奴……いきなりに俺に襲い掛かって来て……メチャクチャ怖かったんだぜ? 何者なんだよ。アイツは!?」


「あーもー! しー! 静かにしてよ!」


 人差し指を立てて、彼女は言った。


「……そんな一遍に色々聞かれても頭おかしくなるわバカ!」


「ご、ごめん……」


 モモノは、頭をポリポリかいていた。なんだか、凄く困った様子だ。どうしたのだろう? いつも以上にイライラしているみたいだった。足は、待ち合わせに遅れて来た人を待つ時みたいに地面をトントン叩いているし、手は拳の形になったまま組んでいるし……。


 すると、彼女はカードを取り出して……


「ほーちゅん」


 名前(?)を言うと、カードからまたオタクのおっさんの声がする。


「……仕方ないお。こうなったら言い訳もできない。説明してあげるだお」


「けど!」


 モモノの顔が、急にマジになった。目頭が熱くなっているのが分かる。……なんだ? そんなにバレちゃまずい事だったのか? これって……。いや、ただ事じゃない事は、俺にも分かるけどさ……。


 モモノは、カードを両手でしっかり掴んだまま言った。


「……ここで言ってしまったら、私は……」


「けど、しょうがないお。今ここで言わないと……もうあんな姿まで見てしまったわけだし……」


 かーど? の声の後、モモノの顔が急激に暗くなった気がした。


「だから……行くなってあんなに言ったのに……」


「モモノ?」


 今までにないくらい怒っている? のとは、少し違いそうだが……なんだか、切羽詰まっているみたいだった。


 彼女は、下を向いていた。上の歯と下の歯が何度も音の立つくらいギシギシと噛み合う。自分の服を握りつぶしてしまいそうなくらい辛そうにしていると、彼女は急に深呼吸を始めて俺に言った。


「……アンタが、さっき見たのは天使みたいな奴じゃなくて、本物の天使よ」


「え?」


「ただし、殺戮の天使。奴らは、私達人間を滅ぼすために天界からやって来た使者」


「え? は? 天界? 使者? いや、何言ってんだよ?」


「見たでしょう? 空が割れるのを……。あれは、天使にしかできない。奴らが降臨する時は、いつもああやって、空が割れる」


「はぁ? てか、いつもってお前……もしかして今までもずっと……」


 この時、ようやく俺とモモノは今年初めてお互い向き合って話をした。 


「そうよ。私は、今までずっと天使と戦ってきた。コタローが知らない間ね。奴らから……天使から人間を守るために」


「天使から人間を? いや、ちょっと待て……。話がついていけない。なんだよそれ? お伽話か何かか? そんな世界の終わりみたいな事あるわけ……」


 モモノは、首を横に振った――。


「……後、365日で人間の歴史は終わる」



 

 ――残り364日。

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