カテゴリ4 2つのカードを持つ戦士

 ──世界が滅ぶなんて言われたら普通はどういう反応をするんだ? 残りの寿命を宣告された患者みたいに目を大きく見開いて固まってしまうのか。


 俺の場合、最初に出て来たのが笑いだった。別に世界が滅ぶなんてどうでも良いし〜みたいなのとは違う。それは嫌だ。当然だ。

 けど、いざ本当にそうなるかもと言われると、恐ろしくなってくる。


 心では恐ろしいと思っているのに、感情が追いつかない。こんな新年のスタートは、ゲームの世界だけにして欲しいくらいだ。


「何言ってんだよ? そんなわけ……」


 けど、モモノは首を横に振った。アイツは真剣だった。俺から目を逸らさない。こういう時のアイツは、嘘はつかないって事を俺は知っている。けど、だからこそ信じられなかった。


「だって、俺達……今年から3年生……」


「ううん。来ないよ。私達が卒業する未来は」


「は?」


 意味がわからなかった。卒業しないわけないじゃないか。単位も取れてるし、出席だって間に合ってるのに。後は受験だけすれば良いだけのはずなのに……。


 モモノは、「はぁ」と大きくため息をついた。


「コタローは、ヨハネの黙示録って知ってる?」


「……なんだよ? それ」


 聞いたことはある気がするけど、当然内容は知らない。俺、クリスチャンじゃないし……。


「ざっと言うと、世界の終わりについて書かれた本なんだけど、その黙示録に描かれている終末の天使が、さっきのやつ」


「え?」


「ラッパの音を聞いたでしょう? 黙示録の天使は、ああやってラッパの音と共に今ある世界を滅ぼす。そして、新しい世界に作り変えるの。それが奴らの神から与えられた使命」


「ちょっ、ちょっと待て? そんな聖書の世界の出来事が現実にあるわけないだろう? だいたい、それって御伽話みたいなもんだろ? 現実にあるわけ……」


「あるのよ。貴方が知らないだけで、この世には、実在した御伽話の世界っていうのが。私もその1人だから」


 訳が分からん。すごくいきなり過ぎて……。


「……そしたら、モモノはその世界を終わらせる天使と戦ってる……えと、切札戦士?」


切札騎士アルカナイトよ。私達は、黙示録の予言の通り、この2026年の世界の人類を終わらせにくる天使達と戦い、彼らを封印する。そのために戦ってるってわけ」


「封印?」


「そ!」


 モモノは急にポケットから先程のタロットカードともう1つ、別のカードの束を取り出した。


「なんだよこれ。こんなに沢山カード持ってたか? お前」


 すると、モモノは2種類のカードを俺に見せて説明してくれた。


「私達、切札騎士アルカナイトは2種類のカードを使うの。1つが、自分の潜在能力を高めてくれる大アルカナ。もう1つは、天使を封印する際に用いる小アルカナ。こっちは、全部で53枚。黙示録の天使と同じ数あるわ」


「大アルカナは?」


「21に決まってるでしょう」


「て事は、モモノは53枚のカードと21枚のカードを持ってて……あれ? て事は合計で何枚だ?」


「違うわ。大アルカナは、基本的に1人1枚しか持てないの。例外はあるんだけどね」


「そのカードが?」


「そう。これが私の大アルカナ。運命の輪ホイール・オブ・フォーチュン


 モモノが見せてくれたカードには赤い色をしたサークルが描かれている。


 ──って、これは!? さっきのモモノの目に書いてあったやつ!


 と、その時


「初めましてだお」


「しゃっ、喋った!?」


 やっぱり、そのカードから声がしていたのか……。


運命の輪ホイール・オブ・フォーチュンに宿る者。ワイの事は、気軽に“ほーちゅん”って呼んで欲しいんだお!」


「お、おう……。よろしく? ほーちゅん?」


 困惑している俺にモモノは、説明を続けた。


「この大アルカナの中には、過去に人間が作ってしまった神殺しが封印されているの。ほーちゅんは私達、切札騎士アルカナイトの中に流れる眠れる血を呼び覚ます」


 と、ここで俺はある事について気になった事をモモノに質問してみる事にした。


「さっきから気になってたんだけど、その眠れる血とかさ、御伽話が本当だったとか言ってるけど、お前ってなんかそう言う特別な家だったっけ?」


「……えぇ。そうよ」


 モモノは、キッパリとそう告げる。いや、本当かよ? 全然そうは思えないぞ。15年くらいになるのか? あの家で暮らして来たけど、モモノのお父さんもお母さんも皆、普通のいい人達だったじゃないか。そんな伝説上の何かとは無縁な気がするが……。


「何だって言うんだよ?」


 すると、モモノは少し恥ずかしそうに頬を赤らめると急に視線を逸らして言ってきた。


「……それは、その……なっ、名前で分かるでしょう?」


「名前? 吉備モモノ……。え? 誰だ? そんな奴いたか?」


 よっぽど知名度のない奴なんじゃないか?



 モモノは、モジモジしたまま小声で告げる。


「ほら、有名じゃない? アンタだって小さい頃に一度は読んだ事あるでしょう?」


「吉備モモノなんて御伽話は、読んだ事ねぇよ? てか、それこそ変な妄想なんじゃねぇの?」


 次の瞬間、彼女は地面をガンガン踏みつけて俺を睨みつける。まるで、駄々を捏ねている時の小さい子供みたいな仕草で怒りを露わにするとももは、顔を真っ赤にして告げた。


「……んな訳ないでしょう! バカッ! アンタ本当にさっきの戦い見てたの!? 私の名前……どう聞いても思い浮かぶのはあれしかないじゃない……」


「吉備……吉備? 吉備真備?」


 モモノは、大きくため息をついた。


「はぁ、どうしてこう言う時にそう言う人名が思い浮かぶかなぁ。馬鹿のくせに……。もう分かったわよ。言えばいいんでしょう! 言えば!」


 モモノとまた、目が合う。彼女は真剣な顔でこっちを見て言った。


「……私の祖先は、吉備津彦命きびつひこのみこと。アンタみたいな鈍感バカにも分かりやすく言うならその……もっ、“桃太郎”よ」


「え?」


 桃太郎? 桃太郎ってあの桃太郎? モモノだから……桃太郎? 犬と猿とキジで……も、桃太郎さん? モモノが?


「ええええええええええええええええ!?」


 俺が驚いているのとは真逆にモモノは、赤面していた。


「あーもー! しーっ! しーっ! しーっ! なのっ! だから、言いたくなかったのよ。恥ずかしい……」


 彼女は、顔を隠していた。さぞ、恥ずかしかいのだろう。


 けど、マジか。モモノの先祖は、桃太郎。……て事は、モモノは桃太郎の子孫!?


 マジかよ。こんな偶然あんのかよ。15年くらい一緒に暮らしてきて初めて知った。家族の秘密。


 俺の家族は、桃太郎の末裔だったなんて……。




 ──To be Continued.

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天滅の切札騎士(アルカナイト) 上野蒼良 @sakuranesora

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