第5話

 御者はノエル様が下りたのを確認すると、とっとと王都へと踵を帰して行った。

 というか、護衛も居なかったの? 何て扱い!

 焦る心の中でも、イライラは募るが、ノエル様を何とかしなくては!


「あ……頭を上げて下さい!」


 むしろ、その綺麗なご尊顔を拝ませて下さい!

 顔もまともに見られないうちから、しっかり旋毛だけ目に焼き付けるって、なかなかないよ!?

 あ、サラサラな綺麗な黄緑色をした髪の毛だ~。

 襟足長めだけれど、うなじもチラリと見えてセクシーだわ。


「私の愚行のせいで、婚姻など……しかも平民に!!」


 あ、それか。

 つい観察してしまっていた私だが、その程度の事ならば問題ないというのに。

 まぁ普通の貴族令嬢ならば迷惑千万どころか、恨みも募っている案件か。


「それなら大丈夫ですので。ここは辺境伯領ですよ? 平民だのと関係ないのです」


 口調も優しく丁寧な言葉遣いを心がけ、見えていないだろうけれど笑顔で答える。


「私はソフィア・マリアックです。あ、もうソフィアだけですかね。お顔を見せて下さいますか? ノエル様」


 貴方の妻となるものです。と口にしかけたが、言葉ではなく心臓が飛び出しそうだったので止めた。

 名前だけで気が付いてくれるだろうと思いながらも……あぁあああ! ついにご対面だ!


「貴方が……」


 ノエル様が顔をあげ、オレンジの瞳と私の視線がぶつかった。

 切れ長の瞳で、少しきつそうに見える美形。仕事中だけモノクルをかけてるんだよな~! 見たいな~!

 うっとり見つめていれば、ノエル様は何かに気が付いたように頬を染め、少し視線を反らした。

 え? 何? 何か失礼な事でもした?

 それともがっかりしたとか!? 外見だけは可愛い系だと思うんだけど、ノエル様は美人系の方が良かった!?

 大丈夫! 仮初の夫婦なのだから!


「黄緑とオレンジ……」


 力強く書類上とだけ言おうとした私の耳に、エディのポツリと呟く声が聞こえた。

 うん? ノエル様の色? それは記憶が戻ってから、ずっと身に着けているけれど……。


「あ……」


 むしろ今日はガッツリとノエル様の色を身にまとっていた。

 これじゃ求愛というか、もはやノエル様一色!!

 家族のジト目が私に向かう中、私も恥ずかしさに顔を染め上げた。

 やっちゃったー!!

 お互い戸惑い、何も言葉を発さなくなったのを見かねたのが、お父様が大きく咳払いをした。


「とりあえず、この邸に住みなさい。私達はソフィアに不憫な思いをさせるつもりはないからね」

「はい、申し訳ございません……」


 お父様の威圧に、ノエル様が小さくなった。

 渋々といった感じでノエル様が立ち上がる。

 否、所在なさげと言った所か。

 自分の落ち度でこんな事になっていたら、罪悪感でいっぱいだろう。

 ノエル様の表情も暗い。


「何か言われたら、住み込みで仕事をしてもらっているという事にする」

「はい! 嫡男でしたので、領地関係は大丈夫です!」

「駄目ー!」


 お父様がノエル様と話を進めながら部屋へと案内するのを、後に付いて行っていた私は大声をあげた。

 キョトンとするお父様とノエル様。私と一緒に付いてきていたお兄様やお母様、それにエディも何だと首を傾げる。


「まずはノエル様を休ませないと! 苦労した分、ここではゆっくり過ごしてもらいたいですし!」


 ノエル様はこの世の終わりかと思えるくらい、暗い顔をしているだけでない。

 目の下には隈もあるし、頬も少しこけていて、顔色も悪いのだ。

 ゆっくり療養して、自分の幸せを見つけてもらいたい!


「え……あの……」

「大丈夫です! しっかりお世話しますので!」


 ノエル様の言う事を遮って、私は元気よく返事をした。

 遠慮してもらっては困る!


「部屋はこちらで……」

「ではおやすみ下さい! あ、入浴の準備も整えてありますので! こちらです!」


 お父様の言葉を遮り、私は矢継ぎ早に繰り出した。

 ここは魔法もある世界だ。

 ノエル様は緑と土の属性だが、お母様の方が水や風属性で、お父様が炎と雷属性。

 その為、簡単にお湯を出す方法を編み出していたのだ!

 ポカンとするノエル様に、お湯の出し方というか、備え付けられているお風呂の使い方を説明する。


「それでは、夕食のご馳走を準備致しますので! ゆっくりお休みください!」


 呆けているノエル様を背に、付いて来ていた家族全員と共に部屋を出る。


「姉上?」

「この婚姻にノリ気なのか?」

「まぁ、悪くはないかなと」


 お兄様とエディは、私の態度でそんな答えが出たようだ。

 後から色々言われるのも面倒なので、適当に返しておく。


「そんなっ!?」


 お父様が泣き崩れたが、いい加減そこは娘離れしようか。

 呆れた目線で見下ろしていれば、ニヤニヤした表情でお母様が近づいてきて、私の耳元へと口を近づけた。


「ソフィア好みのタイプだもんね」

「なぁ!?」


 何故知ってるんだ!?

 否、好みのタイプというか最推しなんだけど!?

 驚きの形相でお母様を見つめると、お母様はにっこりと微笑む。


「部屋の中の人形」

「~~っ!」


 知られている!?

 見られている!?

 一体、いつの間に!?

 私は言葉にならない言葉で悲鳴をあげるが、それすらお母様は楽しそうにしていた。

 うぅう……女親というのは、あなどりがたしっ!

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2026年1月12日 19:00
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婚約破棄された令息を婿に迎えますが、その人は私の最推しです! かずき りり @kuruhari

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