第4話
そうだよ、そうだよ!
色んな情報があって頭が追い付かなかったけど、私がノエル様と婚姻を結ぶんだよね!?
最推しの! ノエル様と!?
推しの幸せを遠くから眺めていられれば良いと思っていたのに! まさか近くに居られるというの!?
いやいやいや、でも向こうがどう思ってるか……しかし、このまま追放されるのは黙っていられない……。
「ソフィア」
身もだえる私を、この世の物とは思えないものを見るような目で男連中が視線を投げかけている中、お母様は少し厳しさを含んだ声で私を呼んだ。
「なら婚姻届を出しても良いという事ね?」
「なっ!?」
お母様の手にあったのは、ノエル様のサインが入った婚姻届だ。
本人がまだ来ていないというのに、王命と一緒に送られてきたという事だろう。
国王の用意が早すぎるだろ! というか、そこまでしてノエル様を僻地へ追いやりたかったという事か!?
「……ちなみに私が婚姻を拒否した場合、ノエル様は……」
「相手の心配か!?」
「ソフィア、優しすぎるだろ!」
「追放された訳あり令息ですよ……?」
外野が煩いけれど、それは放置して、私はしっかりお母様の目を見つめた。
「……色んな意味で安心や無事といった言葉とは無縁になるわね」
お母様はチラリとお父様やお兄様、エディの方を見て言った。
確かに。色んな意味で危険極まりないだろう。
あぁ、でもでも! 私がノエル様の妻だなんて、恐れ多すぎる!
けれども、後でノエル様に好きに過ごしてもらって良いという旨を伝えれば良いだろう。今はノエル様を救う為にもと、私は婚姻届をお母様から受け取ってサインをした。
「あぁあああっ! ソフィアがっ! わしのソフィアがぁああ」
「結婚したくないと言っていたソフィアが……」
お父様とお兄様は揃って膝をついて、項垂れた。
そこにエディは加わる事なく、私やお母様と一緒に冷ややかな視線を向ける。
「王都からは一週間かかるから、到着も一週間後と思っていれば良いわ」
「一週間!」
あと一週間で生のノエル様に会えるのか!
ドキドキが止まらない! あまりの鼓動に心臓が飛び出しそうだ。
もはやストーリーが違うとか、どうでも良いや。ノエル様は今を生きているのだから!
ノエル様に好きな人が出来たら別れれば良いだけ! それまでは衣食住にも困らせない!
推しの為なら頑張れる女だ、私は! 残業どんとこい! 社畜万歳!
死ぬ運命を変えられたなら良し!
そしてこれからは私が守るんだ!
「ご馳走の準備を……あ! 家が居るのか!」
覚悟を決めて、ふと思い出した。
これから平民として生きていかなくてはいけない事に。
不便な生活を強いたくないし、それなりに邸っぽい方が良いだろうか。
流石に小さな平屋建ては申し訳ない気もする……。
それに私も、もう平民になるわけだ。
「それじゃ家を出ます!」
「ちょっと待てー!」
いざ平民へ! と出て行こうとした私の首根っこを、お父様が掴んだ。
「家はまだここで良いだろう!」
「一緒に住んでも問題はない」
「住み込みで仕事しているとかいう事にすれば良いでしょ」
過保護すぎる……。
私の力だけでもやっていけるというのに……。
「絶対! ここに住め! 部屋は用意する! ただ隣にはしないがな!」
しかし、良い提案なのではないか?
執事やメイドも居るし、広さもある。ちゃんと調度品も揃っているのだ。
公爵家程ではないかもしれないが、いきなりの平屋二人暮らしよりかは、貴族らしい今までの生活に近いではないか。
「よろしくお願いします!」
しっかりと頭を下げてから、私はスキップで部屋へと戻る。
後ろで「ソフィアが他人行儀だ……」なんて言いながら、お父様が泣いている事に全く気が付く事もなく。
「会える! 会える! 会えるんだー!」
推しが生きている世界線!
追放は追放かもしれないが、殺されるわけでもないという安堵と、会えるという高揚感に、私は自作のノエル様人形を抱きしめた。
『ノエルって、ソフィアがいつも言ってたノエルに相違ないのね』
「そうだよ!」
クレハが再度確認するかのように、ノエル様の写真を羽根で指しながら訊ねるので即答する。
『結婚するのね』
「恐れ多いよ!」
改めて言われると恥ずかしさしかない!
いやでもこれは王命での契約婚だ! ただそれだけだ!
愛を求めてはいけない! 見守れればそれで良い!
私は勝手に頷き、一人納得しながらも頭の中を駆け巡らせた。
受け入れの為に部屋の準備……あとご馳走も! あぁあ落ち着かない!
「いっちょ美味しいお肉でも狩りに行くか!」
『結局ソフィアはソフィアよね』
そう言って、私はクレハと共に魔物の森へと出向く。
実は、魔物の肉というのは、とっても美味しいのだ。否、それなりにランクもあるけれど。
そうして私はノエル様が到着するまでの間、バタバタと準備に走り回っていた。主に肉の調達に。
そして一週間後。
待ちに待ったノエル様が到着……したのだけれど。
見えるのはノエル様の頭。
一体何で……もはや思考が追い付かない。
「この度は多大なご迷惑をおかけしてしまい、大変……大変申し訳ありません!」
馬車から下りた瞬間、お出迎えしていた私達一家に向かって土下座したノエル様は、そんな事を叫んだ。
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