第2話

 ――ノエル・バール。公爵家の嫡男。


 王女殿下と王命で婚約を結んでいる。

 主人公である平民のマリーが、幼馴染のサミュエルと共に特待生として学院に入るのがゲームの始まりだ。

 王太子やノエルの弟である公爵令息、騎士団長子息や宰相子息、そして魔術師団長子息、更にサミュエルと恋を育んでいくストーリーだ。

 その中で王女が平民に対しての苦言を呈して、それをノエルがマリー達に注意していく為に悪役令息的な立ち位置となるのだ。

 そして全ての罪はノエルのものとなり、追放されて、口封じに魔物の森へ置き去りにされて死ぬのだけれど。


「……あれ?」


 玄関を出た私の視界に広がったのは、隊列を組んでいる辺境伯騎士団だ。


「え? ……え?」


 部屋で準備している間に何が起こったというのだろうか。

 スタンピート!? スタンピートでも起きたのか!?

 しかし森の方は静かだ。


「良いか!? 目指すは王都だ!」

「狙うは王族のみ!!」


 お父様とお兄様の声に、騎士団は「うぉおおお!!」と雄叫びを上げて答える。

 ……今、聞いてはいけない言葉を聞いた気がするのだけれど……?


「ソフィアの為に!」

「反旗を翻す!」


 私の頬がひくりと動いた。

 え? どういう事?

 てか王都に進軍する気!? 王族って……ノエル様が巻き込まれる!?

 一体どうしてこんな事にと慌てる私の側にエディがやってきた。


「姉様」

「エディ!? どういう事!?」

「姉様が家名を捨てるとか言うから、謀反を起こす事に……」


 極端すぎないだろうか。

 というか私的に平民万歳な所もあったからこそ、出た言葉なんだけれど……。


「うわ~お……私、愛されてるぅ~……」

「現実逃避しないで」


 遠い目をして呟けば、エディが戻ってこいとばかりに私の身体を揺らした。

 いや、もう思考回路がついていかないよ。

 うん、愛されてる。愛されてるねぇ……。愛が重すぎるねぇ……。


「ストップストップストップーーーー!!!」

「ソフィア!」

「大丈夫だ! 俺達が守るからな!」


 ノエル様まで危険じゃないか! 止めなくてはと大声で叫べば、お父様とお兄様は何を勘違いしたのか、晴れ晴れしい笑顔で返してきた。

 ちっがーう! そんな事じゃなーい!!

 私は思わず魔力を最大限まで引き出し、怒りをアピールするかのように炎を自分の周りに纏わせた。


「ソフィア!?」

「危ないぞ!」


 私が燃えると思ったのか、慌てて駆け寄ってくる二人に対し、私は冷たい視線を向けた。


「話し合おう。 良い? 騎士団は解散!!」

「「はい……」」

『王都を灰にする位やるのに』


 大人しく返事をした二人を尻目に、クレハがとんでもない事を言ったが、それも睨みつけて黙らせた。


「ソフィアが言いたい事だけ言って出て行くからでしょう」


 サロンへと戻って来た私達に、お母様は呆れ、盛大な溜息をついた。


「幸い、マリアック辺境伯領に沿ってあるのはザリエル帝国だもの。向こうに鞍替えしても良いと思ったわ」


 お母様らしき発言に、私は口を大きく開けて驚いた。

 そんな簡単に国を変えるとか!?

 何言ってるんだ、正気か!?

 止めてくれという心の叫びを胸に、私は皆に視線を向ける。


「危険なのは魔物の森くらいだからな」

「物流さえ確保できれば問題ないだろう」

「なら出陣しないで防衛に徹すれば良かったのでは?」


 しかし、返ってきたのは、ノリノリでお母様に同調するような言葉ばかり。


「駄目だってーーー!!!」


 国を変えてしまっては、ノエル様が魔物の森に追放されないかもしれない!

 きっちり追放タイミングで命を助けたい私としては、国の鞍替えなど、あるまじき行為だ!

 私はノエル様を生かし、幸せにする為だけに頑張っているのだから!


「だがソフィア! お前を蔑ろにされるのは許せん!」


 私の怒りの声にポカンとしていた皆だが、一足先に我へと返った兄が更に大きな声を出して、怒りを露わにした。


「蔑ろって……たかが婚姻……たかがじゃないけど!」

「そこじゃない! いや、そこなんだが!」


 どっちだよ! 私もどっちだよ!

 お兄様が身もだえている横で、私は頭を抱えた。

 たかが婚姻……たかが……。

 うん、そうだ。愛のない契約結婚。同居人。そして私は自由人!

 王命とは言え、愛を育んだり、夫人としての活動を強制される謂れはないよね。


「ちょっと話を詳しく」


 私の言葉に、四人は顔を見合わせ、小さく溜息を吐いた。


「当人だもの。知っておくべきね」

「ソフィアに判断してもらうか」

「気に入らなければ問答無用で攻め込もう」

「命運は姉上の手に」


 何で私に戦争を決める権利を預けるんだ。

 そんな怖いもの、絶対お断りなんですけど!?


「とりあえず落ち着こう。戦争はしないからね。人命大事」


 騎士達をそう簡単に殺めてはいけない。


「まず、この婚姻は相手が婿入りしてくる。そしてもう此方に向かっている」

「何その訳ありそうな物件……」


 普通、当主同士での話し合いとかあるだろう。

 王命が下ると同時に出発するなんて、問題ありにしか思えないのだが……あれ?


「……婿入り?」


 私は小首を傾げた。

 私には継ぐ爵位はないというのに、婿入りだと?

 それとも向こうが自分に一代限りの爵位でもあるというのか?

 でなければ、仲良く平民落ちという事になるのだが、その答えは家族が怒りで顔を真っ赤にした事で理解した。

 うん、平民落ちかい。私までもが!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る