第4話 おせち探偵と黒豆の証言

探偵・福来(ふくらい)は正月も働く。

事件はいつだって起きる。たとえば——おせちの重箱から、数の子が消えた。


現場は家族の食卓。容疑者は全員。

福来は重箱を見つめ、箸を置いた。


「まず確認。黒豆、きみは見たな?」

黒豆はつやつやと光り、沈黙のまま“まめ”に鎮座している。

福来はうなずく。

「証言は不要。黒豆は“まめに働く”の縁起。嘘をつかない顔だ」


次は田作り。

「きみは“豊作”担当。景気の話、してなかったか?」

甘辛く照り、口は堅い。


紅白かまぼこは言外に語る。

「めでたさは白黒じゃなく、紅白で決める」


そして、福来は最重要参考人に目を向けた。

海老。背が曲がっている。

「長寿の象徴。君が一番、時間に詳しいはずだ。数の子が消えた“時刻”は?」


海老は黙っているが、福来にはわかった。

重箱の隅に、小さなぽち袋の紙片が挟まっている。

そこに書いてあったのは——「ちょっと味見」。


犯人は、台所の祖母だった。

「正月はね、味見も縁起よ。おせちは“分かち合う福”だから」


福来は帽子を取って笑った。

「事件は解決。罪は——甘い。代わりに、黒豆を一粒多く食べてください。勤勉の刑です」


家族は笑い、重箱の上に福が積もった。

縁起は、厳格な儀式より、笑いの連鎖で増えていく。

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