第3話 鏡餅の小さな宇宙
鏡餅は、丸が二つ。上に橙。紙垂。
見た目はシンプルなのに、意味はぎゅうぎゅうだ。
ある家の鏡餅は、毎年なぜかひび割れる。
「割れるのは縁起が悪い?」と子が聞くと、父は首を振った。
「鏡餅は“割る”じゃなくて開くんだ。運もそう。開いて広がる」
そして鏡開きの日。木槌で叩いて、欠けた餅を集める。
母がそれをおしるこにする。甘さが、冬の空気をほどく。
そのとき、子が気づく。欠けた餅の断面が、星雲みたいに白い。
「ねえ、これ宇宙みたい」
父が笑う。
「そう。丸は“円満”。二段は“重ねる福”。橙は“代々”。この家の小さな宇宙だ」
子はそっと手を合わせる。
「今年も、みんなが元気で、ケンカが少なくて、宿題が早く終わりますように」
祈りは欲張りなくらいがいい。
神さまは、遠慮深いお願いより、生きる気満々の願いを好む——と、どこかの誰かが言っていた。
外では、凧が高く上がっていた。
空は澄んで、福の入り場所がちゃんとあるみたいだった。
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