第2話 門松のあいだを通る風

その家の門松は、ちょっと変わっていた。

竹は三本、長短の並びが美しい。けれど、根元の松葉の中に、こっそり橙(だいだい)が一つ、隠してある。


「代々つながるって、いい言葉でしょう」

祖母はそう言って笑った。正月飾りは、ただ飾るものじゃない。願いを“形”にして、家の前に置くものだ。


元日の朝、家族は雑煮を食べる。

地域の味噌の香り、餅の伸び、具の数——この“数”も縁起だ。

三つ葉は“身を結ぶ”。里芋は“子だくさん”。鶏肉は“前にかき分ける”。

そして、餅は言うまでもなく——望みが伸びる。


食後、祖父が玄関のたたきを塩で清め、家族全員が門松の前で深呼吸をした。

「門松は“年神さまの目印”。風が通るだろ。あれが福の入り口だ」


すると本当に、門松のあいだを風がすっと抜けた。

竹が小さく鳴り、松葉がささやいて、橙がころんと揺れる。


その瞬間、近所の子が転びそうになった。

祖父がとっさに手を伸ばして支える。

子は笑い、母親がお礼にとみかんを一袋くれた。


祖母が言う。

「ほら。“助けた手”に福が乗って戻ってきた。これが一番のゲン担ぎよ。人を転ばせないこと」


門松は、静かに風を通し続けた。

まるで「今年の福はここから入ります」と、家に教えるみたいに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る