福が渋滞するお正月 縁起短編集
Algo Lighter アルゴライター
第1話 初夢質屋の三つの棚
町は静かな三が日。路地の奥に、しめ縄を提げた古い店があった。看板には小さく——初夢質屋。
戸を開けると、番頭がにこりと笑って言う。
「初夢をお預かりいたします。代わりに“縁起”をお渡しできますよ」
棚は三段。
上段に一富士、中段に二鷹、下段に三茄子。…それだけじゃない。横には四扇、五煙草、六座頭まで揃っている。古式ゆかしい、夢の縁起セットだ。
客はまず、入口で手を清め、柏手を一つ。それから番頭が出す茶を飲む。湯呑みの底には赤い字で「笑門来福」。
「あなたの初夢、どんな具合でした?」
「ええと……遅刻して、財布を忘れて、靴下が左右ちがって……」
番頭はうなずく。
「よろしい。では“厄払い”向きですね」
番頭は客の悪夢を、小さな紙片に写し取って折り、破魔矢の矢尻で軽く突いた。すると紙片がふっと軽くなる。
「こちらをどんど焼きへ。灰は風にのせて。代わりに——」
差し出されたのは、朱色のぽち袋。中には小さな五円玉が二枚、結んである。
「ご縁は結んでおくと強い。初詣は、二礼二拍手一礼。お賽銭は投げずに“置く”。音より気持ちが福を呼びます」
帰り際、番頭が最後に言った。
「初夢は、見た内容より“翌朝の一手”が肝心です。明日の朝、初水で顔を洗い、初日の光を背に受けて、掃き清めを。福は、清いところに住みたがりますから」
店を出ると、町の空気が少しだけ澄んでいた。
客の口元には、いつの間にか笑いが残っていた。
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