第八夜 神話と現実の境

たどり着いた森は美しかった。暖かい空気が流れ、花と木々の匂いを運んでくる。

私は陽に照らされた芦色の髪を整え、緩やかに流れる川へ向かった。

父の作った服を脱ぎ、体についた汚れを落とした。

雪解け水はまだ冷たさを残していて、だが不思議と不快感のない温度だった。

手先から土汚れがなくなっとにを確認して、

私は水を掬い口に含んだ。

ふと近場で物音がした。

私は止まった。

大きな息遣い、響き渡る足音。

視界の端、綺麗だった水面の流れが一部、黒く陰った。

恐る恐る見上げると、そこには大きな獣がいた。

燃えるような赤い毛。

私はおろか、大人の人間でさえ一口で飲み込めてしまいそうな口。

そして何よりも目を引く、三つ並ぶ首と尾。

そのうちの一つが水面に口をつけ、

一つは周囲を見渡し、最後の一つは私を見つめていた。

私は怯えていた。いや、怯えていたのは体だけだった。

心は不思議とどこか穏やかだった。

私が岸へ上がると、その音に反応して残りの首が持ち上がった。

六つ並んだ目に見つめられた。

だが私は不気味な感覚など抱かなかった。

どこか神話の世界に迷い込んでしまったような、そんな気さえしていた。

ただその獣の目は、どれも優しいような、悲しいような色をしていた。

気づけばその脚や体には、大小様々な傷跡が毛並みに隠れていた。

こんな力強い生き物を傷つけるものなど、この森にいるのであろうか。

ひょっとしてこの生き物も、私と同じなのかと思った。

「あなたも…。ひとりぼっちなの。」

私は小さく語りかけた。


途端、木々がざわめいた。鳥達が勢いよく飛び立ち、獣は一歩下がった。

私は神話の世界から現実に一気に引き戻された。

気づけば影の向きが変わり、世界が暗くなりつつあった。

もうすぐ日が暮れる。

私は寝床を探しにその場を去った。

去り際に見えた獣の目は、やはり寂しさを宿していた。

川の流れが、先ほどより速くなっている気がした。


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