第六夜 ひび割れた幸せ

「どこへ行っていたんだ。大丈夫だったか。」

私は頷き父のそばへ寄った。父の体は変わらず暖かく、心が安らぐのを感じた。

でも私は知っていた。この幸せが永遠に続くことなどないということを。

久しく忘れていた乾いた音が、風のせせらぎを断ち切った。

「お前たち、こっちにこい。」

どこか必死さを感じる呼び声に、嫌な予感を感じつつ、

私たちは急いで男の方へ向かった。

すると管理人の姿とあの眩しい鎧の男。そしてあの少年の姿が目に飛び込んできた。

私は思い出した。

あの日管理人は父を打ちながら、この鎧の男が放つ視線を気にしていたのだと。

心当たりは明らかに私そのものだった。何が起きるかなど容易に想像がついた。

「王子、あの者で間違い無いですかーー。」

鎧の男はそういうと少年の返答も待たず剣を抜いた。

「つい先ほど、奴隷の分際で我が王子の足を引き、

王子のお身体に傷を負わせたものがいる。そこの芦毛の女を差し出せ。」

その剣先が私の方へ向けられた。皆は他人事のように私のことを見つめていた。

その時周囲は武装した幾人もの兵士に囲われていることに気がついた。

すると意外にも管理人が鎧の男の前に立ちはだかった。

「殿下、お言葉ですが、ここの奴隷は私の管理のもと真剣に働いております。

何かの間違いでは無いでしょうか。」

鎧の男は小さく舌打ちをした後、管理人の足を突き刺した。

鉄の匂いと男の叫びが、暖かい風に乗り、その場の全員の緊張を刺激した。

「我に口答えするな。」

「まだ公にはなっていないが、近々戦を仕掛ける。戦には装備が不可欠だ。

だから確認させた、するとどうだ。

装備は全て雨風にさらされ使い物にならないほど錆びていた。

管理は貴様に任せたはずだが。」

皆が固唾を飲んだ、父でさえ。

あの木箱だ、あの木箱には装備品が入っていたのだ。

「言い訳はいい、大事なのは結果だ。本当なら皆殺しだが、人手は惜しい。

だからお前。あの女を殺せ。そうすれば皆のことは殺さずにおく。」

そういうと鎧の男は管理人の前に剣を突き刺した。

父が私の前に出た。みんなも父の後ろに隠れるように集まり始めた。

管理人はつい先ほど自身の足を貫いた剣を握り私の目を見つめた。

「ーーできない。彼らは私の同士なんだ。今はもう無い国で生まれ、育った同士なんだ。だから頼む、それだけはできなーー。」

鮮血が飛び散った。鎧の男は短刀で管理人の首を切り裂いた。

「じゃあ皆殺しだーー。」


ーーーーーーーーーーー

あとがき

鎧の男は何を考えていたのか、なぜ少女を名指しで殺そうとしたのか。

この男は何も考えずただ殺したわけではない、とだけ思っていただけたらと思います。

本作では男の真意は語られませんが、彼は大事なスピンオフ候補の一人でもあります。

読者の皆様には覚えていてもらいたいのです。人は皆悲しい生き物なのです。

鎧の男も例外なく。


これからもどんどん上げていくので、もしよろしければ、

フォローといいね、称賛していただけると励みになります。

これからもよろしくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る