第4話 カウンセリングにて②

 天井の高さを日々の生活でどれだけ意識するのだろうか。この部屋に来るといつもそう思う。人間はもともと洞窟を住処としていたからだろうかとか、青空の下で生活していたからじゃないかとか、そんな途方もない事を考えてしまう。

 それだけ天井を見つめているからだろうか。それとも天井を意識してしまうのだろうか。

「では、屋敷さん。ちょっと話題を変えましょう」

 穏やかな沈黙を破ったのは、先生だった。

「最近の生活は、いかがですか?」

 なんて事はない、普通の生活をしている。

「何か楽しい事はありましたか?」

 どうだろうか、何か話そうと思考を巡らすが、言葉が出ない。

「では、嫌な事はありましたか?」

「うーん、どうでしょうか」

 先生は私の言葉を待っている様で待っていない、そんな感じでノートへ向かっている。

「テレビを見ました。殺人事件があったと言っていて、とても怖かったです」

 先生はさらりと記して、

「あまり刺激の強い物は避けてもいいんですよ」

 優しい口調で言った。

「なんだか、見たくなったんです。しばらくニュースを見ていなかったと思って」

 先生は私の言葉を遮らない様に、相槌をしてくれる。

「キャスターの人が、変わっていました。そこで気づいたんです。ああ、時間は進んでいるんだ、……時が進んだんだって」

 先生は記入する手を止めた。

「……辛いですか?」

 どうだろうか、私は知らないうちに天井をまた見つめていた。

「どう、ですかね……。私がいなくても、時は進むんだって。取り残されても、それはそれでいいかって……、そんな感じです」

 その後先生が何て言ったか、よく聞こえなかった。

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