第2話

 柴犬みたいな顔して語尾にワンワンつけるコイツは、コボルト。直立二足歩行する犬っぽい妖精で、鉱石掘りが大好きな連中だ。


「ゴブリンだワン」


 どうやらゴブリンの集団に住処の洞窟を乗っ取られたらしい。


「いっぱいだワン」

「オマエらまとめて追い出されたとなると、かなりの数だな」


 要領を得ない。が、数を数えられないんだからこれ以上をコボルトから聞き出しようがない。


「かわいそー。助けてあげなよー」


 フェアリーのやつ、余計なことを。


「いやだ」


 オレにも『ピクシーとゴブリンならどっこいどっこい』だと思ってた時期はあったさ。

 でもな、現物を知ったら一八〇度考えが変わるってもんだぞ。手のひらサイズ小妖精VS棍棒を振り回す小鬼、もうどっちが強いのかなんて確かめるまでもない。

 オレは大きめなピクシーとはいえ、赤ん坊サイズなんだから結論は変わらずだ。


「そんなに言うんならオマエらが助けてやればいいだろ。コボルトとフェアリーが組めば、いくらゴブリンの数が多くっても——」

「イーヤッ」

「どうして」

「だってー、アイツら不潔なんだもーん」


 だったらオレらもイヤがるとは考えないのか? 考えないんだろうなコイツは。まったく。


 そうこうしているうちに、他のコボルトたちもやってきた。

 さんざんゴブリンどもにボコられたんだろうボロボロっぷり……。


「ずいぶん派手にやられたみたいだな」

「半分やられたワン」


 軽いノリで言ってくれちゃって、と、かつてのオレの感性が眉を顰めた。

 しかしこれが妖精種。子を成して育てるなんてオレらにはない。食って寝てたら勝手に増える。やられたら亡骸も残さずに消える。それが他の生き物とは違う妖精という種だ。

 だからって同胞を大切に思わないなんてことはない、か。


「「「クゥ〜ン……」」」


 そう悔しそうに耳を垂れるなよ。


「まったく。これは貸しだぞ」

「おお、やる気になった! アンタのイタズラってエグいからねー。こないだの妖精拐いのときみたく、やっちゃってやっちゃってー」


 そういやそんなこともあったな。フェアリーのやつ、面白がりやがって。


「では準備するモノを伝えるぞ」


 こうして、対ゴブリン洞窟奪還作戦がはじまった。



 物資の調達はフェアリーたちに任せた。こういうときだけ・・、ものぐさしない連中なので助かる。

 それらが届くまでオレらピクシーとコボルトたちは罠作りだ。


「杭はオッケーで、蔓も編めた?」

「できたワン」


 これらは、洞窟から飛び出してきたゴブリンどもの足を引っ掛けてやる単純な仕掛けの材料。ちなみに杭は倒木を加工した。

 寝静まったころを狙うので、コンコンと杭を打ちつけて音を立てるわけにはいかない。なので、こっそり穴を掘って埋めるカタチに。


 これらぜんぶを、ぶきっちょなコボルトと手のひらサイズのピクシーでやるんだから、とんでもなく非効率……。


「持ってきたよー」


 こちらの支度が済んだころになって、ようやくフェアリーたちが戻ってきた。

 しかし、あまりにタイミングがよすぎる。もしやコイツら——


「隠れてただろ」

「な、なんのことー」

「「「ねー」」」


 やっぱりか。

 まぁ自分の仕事を果たしてくれたんならいい。

 

「水瓶、岩塩、銅板、大きな布……、ぜんぶ揃ってるな」

「でしょ。コロポックルたちが運ぶのもやってくれたー」

「で、アイツらは?」

「もう帰ったよー」


 本当にマイペースな連中だな。礼くらい言わせてくれたらいいものを。


「でもさー、銅貨潰しちゃってよかったの。お金っていろんなものと交換できるんだよね? アンタ言ってたじゃーん」

「いいんだよ。オレらが気軽に行ける範囲に店なんかないからな」


 もしも手に負えない人間が来たとき、命乞いの足しにでもなればと取っておいただけだ。どうせ役には立たない。

 コボルトが溜め込んだ鉱石を大量精錬できれば大金持ちになれるんだろうけど、あいにく妖精界隈に貨幣経済は浸透していないのだ。


 さて、やるか。



 さすが穴掘り名人のコボルトだけあって、あっという間に太っとい杭が洞窟入り口の左右に立てられた。

 その杭に出入りを遮るよう蔦を括りつけたら、足引っ掛け転ばし罠の完成だ。


「罠はわかったけど、水と塩でどーするの?」

「まぁ見てろって」


 まずは瓶いっぱいの水。そこへ砕いた岩塩をパラリパラリパラリ。

 よーくかき混ぜたらペロリ。うん、海水くらい塩っぱいな。


 つづけて、塩水いっぱいの瓶に銅板を二枚。


「クックックッ。さぁて、良い子のみんなは絶対にマネしちゃダメなことをしちゃうぞ」

「なにそれなにそれー」

「おいフェアリー。興味津々なのは構わないけど、合図したら言ったとおりに風を頼むぞ。けっこう危ないことするんだからな」

「まっかせてー。ねーみんなー」

「「「わくわくっ、わくわくっ」」」


 ホントに大丈夫かコイツら。


「コボルトも組体操の準備いいか?」

「「「ワゥ」」」


 こっちは問題なしだな。


 ではゴブリンどもよ、我らピクシーの恐ろしさを味わうがいい。


「帯電っ、開始!」

「「「ぴぃいいいーッ」」」


 パタパタ宙を漂う無数のピクシーが静電気みたいな電荷を帯びた。ぶわりと髪が逆立つ。

 電圧はともかく、各々のそれだけでは小さな電流にしかならない。しかし、パリパリパリパリ何十回分も身体に帯びてやれば、そこそこな電源となるのだ。

 さらに、


「前ぇ、ならえ!」

「「「ぴっ」」」


 ズラリ。ビシッと直列に並んで前の者の肩に手を。小さなチカラを束ねて一つに。いわばピクシーの身体自体が発電機兼抵抗器。これで強い電気の流れが生まれる、はず。いやできる!

 そして先頭と最後尾が銅板に触れると——


「フッハハハハ‼︎ 見よ。塩水の電気分解だ!」


 水面がポコ……ポコポコ……。

 おおっと、ツーンとした刺激臭を感じる前に。


「フェアリー!」

「「「あいあいさー」」」


 洞窟に向かってブワリと風を吹かせる。これこそフェアリーたちの能力。


 さぁ、もう少ししたら涙目のゴブリンが飛び出してくるぞ。

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ぽっちゃりピクシーの大魔王日誌 枝垂みかん @etaru_mikan

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