ぽっちゃりピクシーの大魔王日誌
枝垂みかん
第1話
天国とは、こういうところなんだろうか?
日がな一日寝転び、気が向いたときに茎ストローで花の蜜をチューチュー啜り、腹が膨れればまたゴロリ。
もう
オレは名もないピクシー。妖精さんだ。
ただ、他のみんなとは違うところがある。タイパとか気にしていた、かつての記憶が残っているのもそうだけど——
「ぴー、ぴー」
なによりの違いは、外見と大きさ。
オレ以外のピクシーはみんな手のひらサイズ。物差しなんてないから目測にはなるが、おおよそ二〇センチ未満。ついでに三頭身。常に羽をパタパタさせててマスコットキャラみたいで可愛い。
かたやオレはといえば、ピクシーにしてはデカい。たぶん人の赤ん坊くらいあるんじゃないだろうか。ちょいちょい間違われるし。
「で、なに?」
「ぴーぴー、ぴー」
「お客さんだって?」
「ぴっ」
また迷子か。
最近、オレらの森に人が入るようになった。ほとんどは山菜や野草が目的なので害はない。しかし、ときどき親とはぐれる子供がいる。これが厄介なんだ。なぜかと言えば、
「このコ見ててあげてー。いまアタシらでお母さん探してるから」
子守を押しつけられるから。
うわんうわん泣く小一くらいの子に驚いて、我が同胞たちはオレの後ろへ隠れた。たぶん怖がるフリをしてるだけだろうけど。
面倒事を持ち込んだのはフェアリーだ。
コイツらは三頭身のピクシーと違い、ロリキャラみたいな身長と頭身の妖精。もれなくコイツにも羽があって宙に浮いている。
一時期は『この世界の物理法則は仕事してないんだな』などと疑問にも思ったものだが、いまはそんなことどうでもよくなって久しい。
さておき、
「ここは託児所でも迷子センターでもないぞ」
「またわけわかんこと言ってー。アンタが『人間を助けてやれ』って言い出したんでしょ。だったら子守りくらいやってよねっ」
ということなら自業自得。やるしかないか。
まずは泣き止ますところからだな。
「おい、お嬢ちゃん」
「ひっぐ、ひっぐ……。え、赤ちゃん⁇」
「オレを可愛いベイビー扱いしていいのは大人のお姉さんだけだ。オマエには十年早い。それとな、オレはれっきとした魔物で、妖精のピクシーだぞ」
「……おデブな妖精さん?」
「誰がデブじゃコラ‼︎ ぽっちゃりさんと言えやこんガキゃあ!」
「——うわわ、髪がっ」
見たか、オレの天突く怒りによって髪が逆立ったのだ。
うそ。
「「「ぴぴーい」」」
オレの髪を逆立てたのは、ドッキリ大成功をハイタッチで喜び合う愛すべき同胞たち。
これが我らピクシーの特殊能力、発電である。
ヤバいときに『バチッと放電して身を守る』これくらいしか使い道がない静電気ほどの弱々能力だが、それを髪を逆立てる一発芸的な遊びとして流行らせたのだ。
「あははっ、おもしろーい」
よし。不安は薄れたようだな。
ここでちょうどよく、
「そのコのお母さん見つかったってー。いまこっち向かってるみたーい」
別のフェアリーが母親発見を知らせにやってきた。
「よかったな。じゃあとっととコイツを連れてってやれよ。オレは寝る」
「もー。いつも寝てばっかりだからアンタはおデブなんじゃないのー」
「——デブって言うなぁあああーッ‼︎」
また髪がブワッと。
この遊びを流行らせはじめたころは三回もやればコイツらヘロヘロになっていたのに、いまではケロッとキャイキャイしている。
みんな成長したものだ。本気だせば二〇回は連続で使えるじゃないかな。
しかし副作用もあって、
「妖精さんたちヘンな頭ぁ」
溜まった静電気によってピクシー全員がキレた戦闘民族ヘアに。
さぁて、いちおうのオチもついたことだし、そろそろお別れの時間か。
しかしその帰り際、あろうことか迷子は花を摘もうとしやがった。
「おい待て」
「ん?」
「オマエ、それを食うのか?」
「お花は食べないよ。大きくてキレイだから、お母ちゃんにも見せてあげたくて」
「じゃあダメだ。それはオレらの食料だからな」
「ん……っと⁇」
これじゃあ伝わらないか。
「たとえば、オマエんちの畑から麦を引っこ抜いたら父ちゃん泣くだろ」
「……うち、お父ちゃんいない」
「そうか。それは悪いことを言ってしまった。ええとだな、とにかくそれはオレらの食い物、だから食べないなら摘むのはやめてくれ」
「うん」
「その代わりと言ってはなんだが、これをやろう」
オレは花の種を手渡した。
「さっきのお詫びも込めて、なっ」
「ありがと」
「たぶん畑の周りにでも植えておけばそのうち咲くだろ。知らんけど」
迎えがきたので、
「さよなら、ぽっちゃり妖精さん」
「おう」
これにてお役ごめんだ。
はぁ〜あ、疲れた。寝よ。
ゴロリと横たわり、茎ストローを咥えて花の蜜をチューチューと。ダラダラしながら吸う蜜は最高だぜ〜い。
「アンタってホント人間の相手うまいよねー。アタシらより上手に話せてるし」
……フェアリーのやつ、まだいたのか。
「これでもけっこう長いこと人間やってたんでね」
「あっはは。またまたー」
まっ、信じる信じないはコイツの自由。
オレは平和な妖精の森で、のんびりだらら〜んと過ごさせてもらうだけ。
などと、ボーっと流れる雲を眺めていたら、
「ワンウワ〜ン、たいへんだワーン!」
コボルトがやってきた。
血相を——変えてるかどうかは毛むくじゃらの二足歩行ワンちゃんなので確かめようがないけど、どうにも只事じゃない様子。
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