ビール
プシュッと音を立てて有沢が缶ビールを開ける。
そのまま勢いよく缶を煽り、喉をゴクゴクと鳴らして一気に半分近く中身を減らして、大きく息を吐く。
「おっさんくさい」
笑うと有沢も「うるさい」と私の肩を小突いて少し笑った。
私も有沢が買ったビールを開けて飲む。
程よい苦味が炭酸と共に喉に流れ込んできて気持ちがいい。
「食べよ」
さっき買ってもらったポテチの口を開け、背面も開けて広げる。
それに応じて有沢が「あ」と声を出して口を大きく開けるから一枚手に取り、放り込んでやる。
高校の頃より伸びた黒髪の前髪を上げて、あの頃と変わらない大きな瞳に薄い唇。
おそらく分類するならかわいいに属する顔を見る。
分類上そうなるというだけで、今は昼間から飲む酒に上機嫌で緩みきっている。
再会したばかりの頃はこんなに緩んだ顔を見せてくれなかった。
去年、有沢が隣に引っ越してきた当初は私から彼女の部屋に半ば無理やり押しかけていたし、追い返されることも幾度もあった。
いつも憔悴しきってイライラして何かに追い詰められた様子で高校時代の面影もなかった。
私はそんな有沢に付き纏っていただけだけど、ある日急に憑き物が落ちたみたいな顔をして私の部屋に大量の酒を持ってきた夜をよく覚えている。
それからというもの、有沢は私と過ごすことを自分で選んでくれるようになったし、私も有沢といることを自然と選んでいる。
そんなことを考えていると、有沢はいつの間にか二缶目を開けていて、片手で缶を傾けながら足を伸ばして私の足先をつついてくる。
「なんだよ」とつつき返すとヘラヘラしながら更につつき返してきた。
「もう酔ってんの?」
だとしたらいつもより大分ペースが早い。
「ちょっかいかけたいだけ」
つつきあいは段々と足の引っ掛け合いのようになり、最終的に寝技のような組み合いに発展した。
必死に手を取ったり払ったりして存在しない技を掛け合う自分たちがツボにはまって、二人で大笑いしながら畳に倒れ込む。
私の腕に頭を乗せたまま、笑いすぎて息を切らしている有沢を引き寄せると私の胸のあたりに埋もれる。
「なんだよう」
顎の下から籠った声が聞こえる。
後頭部を撫でてやるとぐりぐりと頭を擦り付けてくる。
そのまましばらくそうしていると有沢と私の境界線のようなものが溶けて無くなったような錯覚を覚える。
一つの大きな塊になって宇宙をゆっくりと漂っているような感覚。
……酒がいい具合に回ってきたらしい。
まだまだ飲んだのは少量だが、運動したのが効いたのか。
「めっちゃ気持ちいい」
「わかる」
浮遊感をしばらく楽しんでから、何を言うでもなく二人で一緒に身体を起こして酒盛りを再開する。
私達はこういう歩調みたいなものの相性が良いらしい。
気を遣わなくていいというのはとてもいいことだと思う。
それから二人で有沢の買ったビール八本を全て空にして、私の秘蔵の芋焼酎まで飲んだ頃にはすっかり泥酔した二人になっていた。
「横になりたい」
「仕方ないなぁ」
有沢のリクエストに答えて積んだ布団を敷いてやる。
といってもこっちも酔っているので敷布団を引っ張り出して広げただけだ。
「吐くなよぉ」
「もちろんであります」
敬礼した有沢が布団にすぐさま横になる。
ちびちびとコップに残った酒を煽っていると横向きの有沢が手を広げてこっちを見ていた。
「……酒入ると甘ったれになるなぁ」
隣で横になるとすぐさまくっついてきた有沢が「うるさい」と呟く。
近くの掛け布団を引き寄せて有沢ごと被ると、二人の体温が布団の中にこもって温かくなる。
窓から夕焼けが差し込んでオレンジに染まった部屋の中で、有沢の体温を感じながら眠った。
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