Chapter9「不完全の楽譜・玖」


───加護の奇跡。


ギリシャの才女がカミシロに流れ着いて以後、強化される怪物たちに対抗する為に開発された異能。


武具に宿された加護と、当人の感情を重ねて産み出される奇跡。

その第一号として当時の教皇の息子であるデイビッド=ウィリアムズが名乗り出る。

その成果により、奇跡は徐々にカミシロを守る騎士たちの間で一般化した。


その奇跡には適性があり、適正なき者はどれだけ武に優れようとも徒花となる格差が生じたが、それを差っ引いても際限なく強化される怪物に怯える人々を救うことになったのは変えようの無い事実である。


そして、その適性は現状いかなる手段をもってしても事前に確定させることは出来ない。

適性があったと分かる瞬間は、ただ一つ。




「────僕はいま、何をみているの?」




願い・祈り・希望

それらが加護を宿す武具に触れた瞬間

重なって奇跡として現れた時のみである。


ロウドは光を生まれつき宿さなかった。

しかし、奇跡にてまったく違う視点を与えられた。

だがモノを見る事が生まれつき無かった彼には

奇跡が起きたとて何を見ているのかを理解できない。


「ちょっと、ロウド───!?」


しかし、それは理解ある第三者の教えがあれば解消出来る。

ロウドの身に起きた異変は、剣に触れた時なのは明らか。

ルビィは剣から彼を引き剥がそうと触れた瞬間


ルビィもまた、ロウドが見たモノを共有した。

ルビィには直ぐに理解出来た。


ロウドが見たモノ、それは。



「───これは、今いる、部屋?」



視界いっぱいに広がる、今いる場所を示す地図マップだった。

間取り、地形、何処に何があって誰がいるのか。

それらを全てが、記されている。


「これは、ヤバい気がするわね・・・」


まだ一目見ただけでも様々な想像が出来る。

戦いにおいて、相手の把握や地の利の理解は大きなアドバンテージになる。

それを直ぐに把握して対処出来るのは、かなり大きい。


───と、良い点はいくらでも想像出来るが

今だけの最大の問題点は



「ッ、ロウド!!!」



視界に何も宿さなかったロウドが、急にこの情報量を視界に現れた時に生じる負荷。

脳への負荷が計り知れないとルビィは推測した。


ロウドから手を離したルビィは、推測は正しいことを確信。

ロウドの顔は頭に血がのぼったように赤く、大量の汗が垂れている。



「剣から手を離しなさい!!!」



一刻の猶予もない。

そう判断したルビィは、強引にロウドの服を掴んで引っ張る。


「あッ・・・・・!!」

「あ、やば────」


目論見通り、ロウドは剣から手を離し

起きた奇跡は収まった、が。

強く引っ張りすぎてしまったが故に



「うわっ!?」

「んぐっ・・・!?」


ルビィは床を背に倒れ、ロウドはルビィに覆い被さるように倒れた。


「っっ!?!?ごごご、ごめんなさ・・・!?」

「っ!?ちょ、ちょっと暴れないでよ!!」


そして何が起きたか理解したロウドは何とか離れようと足掻くが、それが余計に空回りしてまったく退けてない。

ルビィも一瞬遅れて理解したが、それどころではない。


ただどうしても頭には過ぎるようで。


(くくく、口に何か感触ッ!というか歯が痛いくらいにぶつかったけど、もしかして・・・!)

(ちょっとぶつかって痛いけど、唇になんか感触・・・!こんなときに何よもうッ!?)


お互いに、信じたくはないが起きたことを否定出来ないでいた。





なんやかんやで。


「まったく・・・色々あったけど、そんなことより」

「あの・・・」

「そ ん な こ と よ り !!!」

「はい・・・」


落ち着いてお互い向かい合って座り

一旦先程のことは何も無かったことにした。

無かったことにしたったらした。


「アンタには加護の奇跡が発現したわ。

仮初の世界でも加護がしっかり再現されているのは腐っても聖樹の中ね」

「腐っても、て・・・。

でも、僕には何が見えていたの・・・?」

「地図よ」

「ち、地図って・・・道とか何があるとか書かれてるっていうアレ?」

「それよ」


一応知識だけは知っている、地図という概念。

もちろん目に映すことは出来ないので、実際見ても何も分からなかったが。


「しかもアレ、たぶんリアルタイムで更新されてる。

アタシ達がいる場所まで書かれてたわ


ただ、アンタには分からなかったでしょうけど」

「う、うん・・・

何が何だか分からなくて、分かろうとするとどんどん頭が痛くなってきたんだ・・・」

「でしょうね・・・。あのままだと、脳ミソ焼ききれてたわ」

「焼け・・・っ!?」


自身の身に起きたかもしれない取り返しのつかないことにロウドは言葉を失う。


「だから、そんな事が起きるくらいならさっきの事は安いものよ。気にしないで」

「あの、やっぱり気にして・・・」

「気 に し な い で」


周りにルイとかアステル、或いはメイビスが居たらなんと言っただろうか。

不慮の事故ラッキースケベを気にしているのはむしろルビィだろう、とでも言われただろうか。

しかし悲しいかな、ロウドもまた気にしているし立場も今は弱いので押し切られるしかなかった模様。


「・・・話は戻るけど、アレはとんでもない能力だと思うわよ。

アンタが強くなる訳じゃないけど、アンタの周りが活用したら強くなる。

一瞬だから、確証は無い───けど、可能性は感じたわ」


まだ分からない。

もしかしたら拍子抜けかもしれない。

しかし少しでも、1ヶ月後に訪れる地獄に活かせるモノだと確信した。


「─────」


それを聞いたロウドは、顔をあげる。

数分前までは、とても考えられないことだった。

それは、自分自身に何かできる"力"があること。


そこらに生えていた、たった一輪の花しか渡せなかったあの時より


「・・・・僕は、役に立てるの?」

「ええ」


あの時よりずっと、役に立てる。



「僕は、強くなれる・・・!」

「そうよ」



あの時よりずっと、強くなれる。



「やっと、僕はっっ・・・!」

「・・・むしろ、早すぎるくらいだけど」





「・・・まったく」



ロウドは涙を流す。

それが何の涙かなど、もうルビィには分かっている。

仕方ないわね、と

それを咎めることはない、しかし。



「でも!今のままじゃ、宝の持ち腐れよ!

アンタのやるべきこと、それは・・・」



役に立ちたいならば、少しくらいは鬼になろう。

ずっとお気にのお宝のように大事にしたかったが、こうなった男の子は止まらないだろう、と。

デイビッドという存在から、よく知っている。



「その能力をしっかり知った上で、使いこなすこと!

アンタがどこまでやれるか、楽しみね」



今はただ檄を飛ばす。

ルビィという存在の役に立てること。

それを光栄に思え───そういうように。


それに対しロウドは


「ッ!はい・・・!」


今までで1番、力強く頷いた。



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