Chapter8「不完全の楽譜・捌」
「むっかつくーーーッッッ!!!」
レッサは味方ではなかった。
現状わかる範囲だが、この世界において唯一意志を持つ存在だったが、その立場は流されるがまま憎悪を捧げる役割でしかない、敵と言っていい存在だった。
元々引っかかる所は山ほどあったが、今回はそれの比ではない。
思い切り、地団駄を踏むルビィ。
そんなやつと同じ屋根の下で暮らさねばならないのも屈辱だった。
しかし当の本人は言うだけ言って、別の部屋のピアノを弾く。
もちろん、不完全なあの曲をだ。
「鎮魂の為の曲を、アンタみたいな絶望しきった男が弾く資格あるかーーッ!!」
お気に入りの曲が台無しだというルビィからのクレーム。
しかしそれは無視された。
あの最後の部分を弾かないのは、レッサの温情なのかは分からないが。
「ったく・・・!勝手に絶望的な雰囲気で締められて可哀想アピールすんじゃないっての!」
兎にも角にも、死の刻限を告げられてなお
ルビィは非常にたくましかった。
自分の意思と呪いの怒りの区別がつかないまま荒れていて、それでも拭えぬ絹糸に絞められているかのように詰みに近づくあの頃よりは、期限がハッキリしていてかつ自由意志がある今の方がルビィにとってはマシな状況だった。
「と、言うワケでクヨクヨすんじゃないわよ!
「ルビィ様、ちょっと喋り方変だよ!?」
ズビシィ、と指さすルビィ。
指さされているのは見えないが、こちらに言っているのは分かったロウドは思わず突っ込んだ。
「変にもなるわよ。
そりゃ、実際に起きたことだろうから気の毒だけど、アタシ達が巻き込まれるのとは話が別。
さも決まったかのように言うけど、そもそもアタシ達って本来舞台に組み込まれるはずの無かったゲストだもの」
ふんっ、と鼻を鳴らして昨日の出来事を踏まえての言葉。
理屈と自分たちの身に起きたことを考えて順当に考えれば、確かに怪物に囲われて死ぬ──という結末になるのだろう。
だがそれは"本来の
「だから、クヨクヨするなってのはそーゆーコト。
やるべき事は確かに見えてきたケド、まだまだ疑問だらけだし、付け入る隙は必ずあると思うわ。
だけど、今は頭ん中こんがらがってるから整理中よ。横失礼!」
「わっ!もう、乱暴だなぁ・・・」
ベッドに座っていたロウドの隣に、ルビィがドカッと座る。
昨日のレッサによる絶望的な開示と比べて、そのルビィの乱暴さは安心する。
震えて呼吸すら忘れた死の宣告だったのに、今はそれもどうにかなるんじゃないかと思えてしまう。
「アンタも、何か気になることがあるなら言いなさい。
アタシも頭ん中を整理しやすいから」
「あ、うん・・・それじゃ、一つ良い?」
「ドーゾ」
そんな調子のルビィのお陰で、ロウドの頭も回り出した。
何やかんやでロウドの素朴な疑問は、案外悪くないとルビィは思える。
「レッサさんの孫・・・本来やる人も、他の人みたいに、ただその役をやるだけなのかな」
「あー、意思があるかってコト?
なら、アタシは"無い"って思うわ」
「・・・どうして?」
本来、ルビィとロウドではなく孫をやるはずだった"誰か"。
それはレッサのように意思を持つ演者なのか。
ルビィの予想ではNO。
当然理由が気になるロウドは尋ねる。
「まず、レッサを核とした世界でおんなじこと繰り返すことが重要なら、意思を持つやつなんかその核だけで良いのよ。
要は、繰り返す度に憎悪が欲しいんでしょ?
なんかのアドリブで薄まるなら、そもそもアドリブを許す状況が悪手よ。
アタシならそーする」
1つ目の理由、それは"憎悪を捧げるにあたってノイズになる"という観点。
基本的な流れは変えられないが、しかしこうした猶予がある以上は憎悪を薄める要因は避けるべきだろうというルビィの予想だった。
「まず、てことは・・・他にもあるの?」
「ええ。あのジジイ、この世界での孫の話になると、まるで他人事なのよね」
"本来ならば、孫と感動の再会となっていた場面だからね"
"・・・・・・・・・そうだった。いや、そうだな。すまない"
「その孫とやらが、あのジジイと同じで意志を持つ一人なら、アタシ達が代わりに現れた時点でもっと狼狽えていいハズよ。
まっ、繰り返しすぎて二人とも頭おかしくなってて頓着しないっていうならお手上げだけど」
壊れた精神だとするなら推察するだけ無駄だろう。
だから今ある限りの理由を考え、一旦はその結論に達する。
「・・・うん、なんとなく納得した」
「そりゃよかったわ。しっかし、聖樹に在るあの方々・・・ねえ」
「・・・?」
レッサの孫に意思があるか否か、その話を終えてルビィが気になったことを呟く。
「聖樹って、要するに
確かに聖樹は自然に生えたモノではなくて、赫い星に残った最後の理性が生み出した聖域の核。
けど結局、加護も呪いも、神子を通した赫い星によるもの。
それを聖樹で蓋をして、ながーいあいだ隠して偽りの歴史を重ねる温床になった。
ただ、今はその両方の役割を終えて島を彩る飾りになった。
・・・と、思ってたんだけど」
あくまで真実を隠し、聖樹こそが人々を守っていると誤認させる為のモノ。
確かに聖域の核という、あの呪いから島国の人々が数千年命を繋いだ重要な役割があったが
戦いの当事者や、後に真実を知った人々にとっては
聖樹について、追求しよう、或いは活用しようという動きになるには、まだカミシロの発展が落ち着かない。
聖樹そのものへの注目は、先の話になってしまう。
「・・・少し考えが甘かった、てとこね。
確かに、カミシロは悲劇の積み重ね。
楽園から地獄に変えた数千年前から、アタシ達の代まで絶望と憎悪を重ねてきた。
しかも聖樹は自然物でなく、まさに神が遺したモノ。
普通の物理法則で片付くシロモノじゃない。
その記憶や意思が、聖樹に記録されて・・・奥底で燻ってる。
・・・そう言われたら、納得してしまうわ。
嫌な説得力だけど」
もちろん、これはレッサの言葉をそのまま受け止めるならの話だろう。
あの方々とやらが何者なのか
長い歴史と多すぎる被害者たちのせいで検討もつかないが
少なくとも、レッサはそう信仰している。
そういう説が無から生えて誰かが言いふらしたら。
一定数の割合で信じるものさえ出てきそうだ。
「とまぁ、気になったのはそんな所ね。
物色しながらアレコレ考えると疲れたわ」
「・・・僕も何か出来たらよかったけど。
ごめん、ルビィ様。強くなるって言ったのに」
「大きくなったら、でしょ。
まだまだガキなんだから、今は生き残るだけで充分よ」
そう言いながらベッドに寝転がるルビィ。
花を渡し、渡された最初の二人の会話。
それを思い出して少しの感傷に浸る。
その傍らで、ガシャンと
何かひとつの鉄製の何かが床に倒れた音がした。
「っ、今のは・・・!?」
「あー、それ、部屋の中にあった加護がかかってる剣ね。
多分予備だったんじゃない?」
"だから気にしなくていいわよ"と言いながら、少し目を瞑る。
ロウドも、いつもならば何もしなかっただろう。
だが、いまこの瞬間は違った。
「────ちょ、ロウド!?」
あの花を渡した日の事を掘り返したのが不味かったのか
あるいは、今日はそういう運命だったのか
剣が倒れた音を頼りに、ロウドはベッドから床を這う。
反応が遅れたルビィは、ロウドを止められない。
ロウドは手を伸ばして、剣に触れた。
「ぁ────」
あるはずの視界に
有り得ない情報が見えた。
願い、祈り、希望。
それを胸にして触れた、剣に宿った加護は
「────これ、なに?」
少年に、応えた。
「─────」
「・・・ロア様、なにか?」
「・・・あそこに、"誰か"いる」
現実にて
その覚醒は現在の神子に、微弱な信号として届いた。
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