Chapter10「不完全の楽譜・拾」
ロウドが覚醒した奇跡を、ルビィと共に分析しつつ学習し、制御する。
迫る討伐期に向けた訓練が、一週間経とうとしていた。
覚醒したばかりで名前もない異能。
その可能性をルビィ手動で探った感想はというと。
「応用も効いちゃうせいで、使う人間次第で戦術で負ける確率がめっっっちゃ下がるじゃないの」
ルビィが感じた可能性よりもかなり良い結果を出した。
最初に発動した際にはいまルビィ達がいる部屋だけだったが、家全体の間取りの地図にすることや、家を中心とした周囲の地図にすることも出来た。
更に、上から見た平面から斜めから見た立体的な見方に切り替えも可能。
更に更にと、設置されたモノや地図上にいる生物の種類の表示を限定することさえ可能ときた。
範囲を広げたり置かれたモノや生物の種類の表示を増やせば増やすほど脳の負担が激しくなり
逆に制限すれば負担を抑えられる。
前線で輝く異能ではないが、それでも前線を救うにあたって強力な戦力になり得ることは間違いなかった。
「・・・まぁ、能力そのものは文句なしなんだけど」
では肝心の使い手はというと
「・・・ご、ごめんなさぃ、げ、げんかいですっっ」
「・・・でしょうね」
圧倒的に体力が足りない。
10分継続するだけでバテバテである。
床に突っ伏して動けなくなるほど。
訓練された騎士ではなく、しかも盲目のせいでひとりで移動するのに制限がかかるロウドには人並みの体力すらなかった。
それもあの事件以後、ルビィと出歩く機会を得て徐々に体力をつけてはいるものの、それでも騎士たちの最低限の基準には遠く及ばない。
無論、一般の体力だけでなく思考の体力も含めてである。
この能力を活かし、ルビィが前線を張るという前提ならば、そもそも思考の方がより重要になる。
「訓練されてる騎士でも、多分そういうの素質の有無も重要よ。
それを考えればよくやってる方じゃない?」
能力を行使しつつ、自身の負担や敵の予測、味方への報告などなど、同時に考えるべき事が多いため、それ相応の素質と訓練が必要になる。
それを訓練されてない一般人が扱い切れるはずが無いのは当然ではあった。
更にロウドには、生まれつき視覚を通じた情報を一切持たないという大きなハンデがある。
「しかも表示されているモノが何なのかを覚えながら
それも能力をちゃんと扱うなら、知るだけじゃなくて自分の中で当たり前になるまで覚えなきゃならないもの
アタシには想像しきれない苦労だわ」
いまの盤面を把握する為に、表示されているモノが味方かどうか
いや、そもそもそれが人間かどうか。
そこからまず視覚を頼りにした情報が皆無だったロウドの負担はどれほどのものか。
触れた者と地図を共有できる能力が無ければ、教えることすら出来なかっただろう。
奇跡にて授かった力が活かされる事なく腐るところだった。
「あはは・・・ぼくはもっとうまく使いたいな・・・」
「ぜいたく言うんじゃないわよ。
そりゃ、メイビスに診てもらいながらカリストに教わるとかが一番いいでしょうけど」
「うぇっ!?」
現状に満足しないロウドと、感心しつつルビィはツッコミ。
だが、効率よく成長させるならどうするかの思考を口に出し
いきなりのビッグネームが聞こえたロウドはビビる。
「メイビスは加護の奇跡が出来るキッカケだし、そもそもその専門として存在してるもの。アイツがケアしつつ
そして、カリストの指導を受けるといいわね。
あいつの盤面を操る手腕は随一よ。悔しいケド、どれだけアタシが天才でもあいつの脳ミソには勝てないわ」
カリスト=ウィリアムズ。
文武両道の才に優れ、そのうえ途絶えることなく研鑽した男は、悔しいことに様々な分野において手本になる。
ただ・・・
「・・・いや、カリストに頼りたくないわね。
デイビッドに止められるまで、光の亡者の理屈をアンタに振りかざすの、絶対イヤなんだけど」
問題は某英雄の逸話に脳と眼をこんがり焼かれた光の亡者な部分。
敗北し、飼い殺しになった末路を迎えているが、それも当人の理屈に矛盾は無い。
どちらが上か下か、それで下になったのだから。
カリストは自身の理屈に沿っているだけで、もはやその在り方は変えられない。
より優秀になりたい騎士達が反面教師にしつつ、教えを乞うぶんには良いだろうが
初心者ですらないロウドにはあまりに劇薬が過ぎる。
「あはは・・・ちょっと怖いし、それならこのままルビィ様に教えてもらいたいな・・・安心するし」
「・・・・・チョーシの良いコト言わないでよ、もう」
身体だけでなく、脳まで疲れたロウドが特に何も考えず、無垢で無邪気にルビィを信頼しきっている言葉。
調子が狂うとはこのことで、ルビィもそう返すのがいっぱいだった。
彼の目に光があれば、どんな顔を見られただろうか。
「・・・ま、無いもの強請りしても仕方ないし
愚直に繰り返すしかないわね」
「うん・・・」
「その為にも・・・」
結論を出し、倒れ伏しているロウドの頭にルビィはそっと手を置いて
「・・・今は、少し寝なさい。
アンタが寝てる間に、探索するから」
「・・・うん」
次の訓練が出来るよう、身体と脳を休ませる為に睡眠を促す。
愚直にやる為に、よく寝ることも肝要。
時間は限られているが、だからこそいま考えられる最大効率を目指す。
「・・・おやすみ、ルビィ様」
「ん、おやすみ」
信頼しきっているロウドは素直に疲れと眠気に身を委ね
程なくして寝息が聞こえた。
────────
此処は、書斎兼ピアノ置き場。
レッサを核とした世界の真実を開示して以来、レッサはルビィ達と顔を合わせずに過ごしていた。
仮初とはいえ、孫にピアノを聞かせ、少しづつ教える。
そんな悲劇の中でも残る、僅かな安らかな日々すらルビィ達という
奇跡的に生き残った孫を救い。
僅かな期間だが安らかな日々を送り。
しかしそれは潰える結末を迎える。
絶望、憎悪を忘れず、育て、捧げる。
そんな歪な
明らかに、レッサの心に痛みを感じている。
「・・・・・・私は、30年先から来た子ども達の未来を途絶えさせようとしているのか?」
自分は終わった存在だ。
しかしあの二人は?
まだまだこれからのはず。
それだけでは無い。
「何故、あの子たちは聖樹の真実を知っている?
役割を終えて、とはどういうことだ?」
レッサは、未来を知らない。
この世界を繰り返すにあたって必要な事以外、知らないことは知らないままだ。
そして、扉越しに聞いた聖樹の役割を終えたうえに、当たり前に真実を知っているということは
「・・・まさか、呪いが終わっていたとでも?」
呪いの終わり、この国が始まる前の楽園。
そこからあの二人が来たのであれば・・・
「まさか、私は───」
『そんな平和な未来から来た子達を、こんな理不尽に巻き込んでいるのか・・・と?』
「────」
息を、呑んだ
見透かした天の声に、老人は言葉を失った。
絶望と憎悪が支配した昏い心に食い込む罪悪感
それが、一瞬にして恐怖に変わる。
『甘い』
叱責か
嘲笑か
怒りか
失望か
区別がつかない、たった一言。
或いは、どれでもない程に淡々と。
『絶望と憎悪に、罪悪感など不要』
『絶望と憎悪に、正当性など不要』
『絶望と憎悪の始まりを、忘れる勿れ』
『唯一を守れなかった、それが全てだったはず』
「─────」
レッサの子どもでもあった夫婦だけでなく
孫まで奪われ、そして死んだ。
教皇一族が真実を隠し、脈々と継がれた絶望と憎悪のひと欠片。
それが"彼ら"であり、レッサはそのひとつ。
絶望と憎悪は、それ以外全てが不純物。
供物として必要なのはそれのみ。
何故ならそれは、ほかの何を置いても大切だったモノを奪われたのだから。
それ以外など、要らぬはず。
『憎悪を熟せ───初心に戻るがいい』
それを最後に、天からの声は消えた。
「────はっ、は」
呼吸を忘れたレッサは、苦しげに息を始めた。
恐怖により、絶望と憎悪を思い出すように。
忘れかけた始まりを、取り戻せと。
「はっ、はぁ、しかし、私は・・・いやしかし、ならば、何故・・・・・・!」
しかし、それでもなお、レッサは吹っ切る事が出来ない。
彼を大きく崩したのは、たった一言
「────ロウド=ラビンス」
少年の自己紹介、ただそれのみ───
神代逆光の詩 @axlglint_josyou
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