Chapter6「不完全の楽譜・陸」
「・・・何よ、それ。
アタシ達と見た目年齢に大差ないって・・・
10歳前後じゃない!
そんなガキがひとりで生き残れるワケないでしょ!」
「事実だ。少なくとも、討伐期を生き残ったのは紛れもない事実だ。そうでなければ、再現など出来ない」
「っ・・・・・・!!」
あの怪物たちに追われる地獄が実際にあったかのような物言い。
それを、ひとりで生き残ったとなれば
とても信じられるものではない。
「先も言ったが、私はあくまで核。
ある程度の融通は効くが、大筋は変えられない。
舞台進行は、私では制御できない」
「・・・ああそう、そうなのね。一旦信じてアゲル。
危うく忘れそうになったツッコミどころを思い出させてくれたお礼に」
感心したり驚いたり、そういった感情の動きは見られるが
老人は大きく崩れはしない。
答え合わせには、聞き捨てならないものがもう一つある。
「・・・"ここには存在しない者が頭脳を担う"。
要は舞台進行はソイツがやってるのよね、何者?」
「それは答えられない。私に答える権限がない」
しかし、その疑問は解消されない。
最初からとりつく島がないような回答だった。
「ッ、何よそれ・・・」
「答えようとすれば、また君たちが聞いたような拒絶のノイズが襲うだろうな。
試しても構わないが、君が良くても・・・あの少年はそうはいくまい」
「ッ、アンタ・・・!」
「少年の手を離さなかったあたり、余程大切らしい。
ここまで運ぶのも苦労したよ」
戦う力をいま持たないのに、ルビィは殺気を込めて睨む。
これは宜しくないと思ったのか、レッサは"すまんね"と前置きして
「・・・私とて本意ではない。
脅したのは悪いと思っているがね」
「・・・・・・あ、そ。
アンタのいいピアノ演奏に免じて、許してあげる」
「それは良かった」
レッサは謝意を示すような、より穏やかな言い方をする。
それにまんまと乗るのは癪だが、ルビィはそれも一旦信じることにした。
ピアノ演奏について否定しなかったあたり、やはりあの曲を弾いたのはレッサなのだと確信した。
鎮魂の奏者と名乗る以上、ほぼ間違いなかっただろうが。
会話は一時停止、レッサは今いる部屋で一番大きなソファに座る。
苦労したのは本当なのだろう。
疲労のため息が隠しきれてない。
「・・・先も言ったが、私は核ではあるが自由ではない。
此処に君たちを運んだのも、脚本の一環だ。
本来ならば、孫と感動の再会となっていた場面だからね」
「・・・妙な言い方ね。そういうのもっと、狼狽えると思うのだけど」
「・・・・・・・」
「・・・・・何よ、黙りこくって」
ぽつりと呟かれたボヤキ。
しかし孫との再会を無為にされたという物言いにしては、違和感を覚える。
そこをルビィはつついて見たが、レッサは黙り込んでしまう。
強まる違和感、更に返答を促すが
やはり、レッサは沈黙を貫く。
「ちょっと、何か───」
「んぅ、ぅ・・・ルビィ、さま?」
「ッ────」
貴重な情報になるかもしれないやり取りを中断されたことに苛立つルビィは、さらに更に返答を促そうとするが
未だ意識を失っていたはずのロウドの声がルビィの耳に届き
そちらの方に意識が一瞬で切り替わる。
「・・・・・・ルビィ様、どこ?」
「ッ、はぁ、ここよ・・・。
どう?安心した?」
「・・・・・うん」
ロウドの顔色は良くない。
何も見えない世界で襲いかかる死を生き延びて
更には突然の割れるような頭痛で意識を刈り取られた。
訓練された騎士ですら恐怖であろうに、そうではないロウドにどれだけの負担があったか計り知れない。
弱々しいロウドの言葉に、一瞬キツく言うつもりがその気は失せて
手を握り、落ち着かせるような声色で語りかける。
安堵の笑みを浮かべるロウドだが、やはり顔色はよくない。
「・・・・・意識を失っていたから分からなかったが、少年は・・・まさか目が見えないのか?」
「ッ、だれ・・・!?」
「・・・落ち着きなさい。アタシ達を運んでくれたジジイよ。
後で色々説明するけど、今はこのジジイの家って事が分かればいいわ」
「・・・口が悪いな、君は」
少年からすれば知らぬ声が急に語りかける。
今の今までの恐ろしい体験のせいで恐怖に震えたが、ルビィなりの言葉で今は安全なことを知らせる。
案の定、レッサに口の悪さを指摘されたが。
「・・・助けてくれた、てこと?」
「・・・・・そうでは」
「そうよ」
「君ね・・・」
弱ったロウドなりの解釈と疑問に、厳密には違うと言いたかったレッサの言葉をルビィは遮る。
流石に苦言を呈したかったレッサだったが
「・・・例えば弱った孫に、アタシに説明したような事を言う?
コイツ、目が見えないってだけでただのお子ちゃま。
アタシとは違うの」
ルビィの突き刺すような言葉。
ただ口が悪いのとは違う鋭さ
「・・・・・・・・・そうだった。いや、そうだな。
すまない」
苦言は根元から刈り取られ、レッサは何も言い返せず謝罪のみに留まった。
状況を理解しきれないロウドは首を傾げるが、ルビィは"気にしないでいいわよ"と声をかける。
「アタシはもう名乗ったから、アンタも名乗りなさい。
いつまでも少年呼びは聞いてて違和感あるわ」
「・・・・・」
君こそ、少年を中々名前で呼ぼうとしないではないか。
そう言いたかったが、レッサも疲労と先程のやり取りが効いたせいで口には出せなかった。
「えと、助けてくれてありがとうございました。
僕は、ロウド
ロウド=ラビンス、て言います」
助けてくれたお礼と、礼儀正しい自己紹介。
「・・・ロウド・・・ラビンス。
・・・いい名前だ」
一瞬反応が遅れて、無難な返答。
同時にゆっくり、老人らしく立ち上がる。
「・・・私はレッサ。今日は大変だっただろう
ゆっくり休みなさい。
私も、今日は休むとしよう」
ルビィとは違い、ただのいい子なロウドに対して、相応の言葉。
そして、お互い疲れているという自然な理由。
「詳しい話は、また明日しよう。
君たち、いいね?」
「は、はい・・・」
「・・・・・・ええ」
部屋からレッサは出ていく。
「・・・・・・・・・ええ、また、明日」
ルビィは、見逃さなかった。
ロウドがフルネームで名乗った時
───レッサの瞳が、揺れ動いたのを。
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