Chapter5「不完全の楽譜・伍」


音色が響いた刹那、怪物の手は止まった。


最初は聞き間違いと感じたソレは、徐々に確信に変わっていく。


「知ってる・・・ルビィ様、これ僕が知ってる・・・」

「・・・わかってる」


コンマ一秒でも躊躇や硬直が許されなかったはずが一変。

聞こえてきた音色に聞き惚れるのを許される。


音色を聞いた怪物たちが、徐々に呪われた大地に還ってゆくから。


「───ああ、思い出した」


ルビィの独学した記憶から、ひとつの歴史を思い出す。

"教皇の座にカリストが引き継がれる前までは、悪意の怪物を一定期間沈静化させる楽器を用いた儀式があった。

しかしその必要な道具と技術は断絶し、以後はその儀式なしで対処に追われることになる"と。


「・・・けど、それが」


よりにも寄って、その失われた道具と技術が


「アタシ達が聞いた、アレだっていうワケ・・・!?」


こんなに、身近にあったなど

ルビィは、到底信じられない。


曲は何度も聞いた既知の部分を、ルビィとロウドがいま起きている事象を受け止めきれずとも容赦なく奏でて過ぎていく。


「ルビィ様・・・!」

「っ、最後の部分でしょ。わかってる・・・!」


そして遂に訪れる。

あの不完全の楽譜では分からなかった。

真にfineおわりに至る部分に差し掛かり───





繧ィ繝ゥ繝シ逋コ逕溘?よ里縺ォ豸亥悉縺輔l縺滓ュエ蜿イ縺ァ縺吶?ょ?迴セ縺ッ蜃コ譚・縺セ縺帙s縲





「は───ぁ、がっ・・・!?!?」

「ひ───ぃ、い゛い゛い゛!?」



世界からその音色を拒絶するかのように。

二人の頭に騒音ノイズが響いてかき消して。

音色らしきものが遠く響く度に、騒音ノイズで上書きする。



「いだいッ、いだいッ!!やめてよぉっ!!!」

「ぐ、ぎ、ふざけ・・・ッ、じゃ、ないわ、よッ!!!」



禁忌タブーに触れた天罰であるかのように、二人に割れるような頭痛が起きる。

少年は許しを乞い、少女は怒りを抱く。

二者二様の反応に対し、しかし騒音ノイズは止まない。



・・・ほんの、30秒すら経たない頃には騒音ノイズは終わる。

しかし余りの苦痛は、たったそれだけの時間すら長かった。


「く、ぅ・・・!」

「ぅ・・・」


ピアノの音色もとっくに終わり

鎮まった怪物たちも、もう居ない。

苦痛に慣れぬロウドはいつの間にか気を失い。

ルビィもまた、沈むように意識が薄まっていく。


(だれ、か、くる・・・)


そんな中、土をゆっくり踏みしめて

近づいてくる足音。

もはや動けぬルビィは、顔を上げ

その足音の主を見る。



「────これは、どういうことだ」



こちらを見て、困惑する足音の主。

年老いた男は、間違いなく───二人を正しく認識している。

他の配置された、演者キャストとは違う。



「歴史から消したモノの再現は出来ない。

今度も変わらないと思ったが───


・・・いや、猶予はない。

配置も同じならば、



ルビィが仮説したことを裏付けるかのようなことを、老人は口にして。

ルビィはそこで限界を迎えて、地に伏して意識は底に沈んだ。



「"鎮魂の奏者"の特例を行使する。

───この子は、私が引き取ろう」



それが、ルビィが最後に聞いた言葉だった。





───────


『■■を熟せよ』


『我らが神が赦しても』


『我らの歴史が赦しはしない』



それは、なんの為に───?



『我らが、無念の為に』



──────────



「ん・・・っ」

「目が覚めたか」



見知らぬ天井が、視界に映る。

何か奇妙な言葉を、沈んだ意識の中で聞いた気がするが

・・・纏まらない。

そんな時に、意識が落ちる前に聞いた声がルビィの耳に届く。



「・・・今度は何処で、アンタは誰よ」

「機嫌が悪いようだ、むしろ私こそ君たちが何者かを聞きたいがね」

「「・・・・・・・・」」


このルビィの知るカミシロより30年前後も前の、恐らくは仮想空間と思われるこの場所で、ロウドを除いて初めて意思疎通を明確に出来る相手。


ルビィが意識を失う前の意味深な言葉を聞いて、重要な人物なのは推察できるが、直ぐに心を開くなど土台無理な話だろう。


一方で目の前の老人も、かなり予定外の出来事が故に警戒している。


お互い沈黙して睨み合う。


それから数秒、睨み合う時間が続き

老人は自分のこめかみに指をあて、ため息をついた。


「・・・・・降参だ、私から話そう。

時間が無い。今はまだ自由時間だとしても」


ふんっと鼻を鳴らしてさっさと名乗れというルビィの態度に、疲れたように再びため息をついてから老人は再び口を開く。



「私はレッセ。悪意の怪物を鎮静し、成長を抑制する"鎮魂の奏者"だ」



ルビィが学習した、怪物を鎮める儀式を行う当人。

現在からしたら歩く歴史の末裔は、自身の名前と身分を明らかにした。



「そ、アタシはルビィ。30から迷い込んだわ」

「・・・聡い子だ。既に現実ではないと看破していたか。それも、どの時代を元にしたかまで・・・」


ルビィも名乗り、ある意味で自分の立場を明らかにする。

同時に、ここが現実では無いことを示しながら。

そして、どの時代を元にしたかも答え合わせも。


「驚くのはまだ早いわよ。それに、時間が無いと言うならさっさと答え合わせしたいもの」

「まだあるのか。恐ろしいな、君は」

「仮説が若干崩れてはいるケド、それもいま明らかにするなら変わらないもの」


目を細め、感心していた所に更にルビィはひと押しを試みる。

仮説した部分が老人の意味深な言葉で崩れ始めているが、今から正解を考える時間はないと踏んだ。


「最初はね、アタシ達は突然の飛び入り参加でこの世界に取り込まれたと思ったのよ。突然の端役モブとして。

そして、この世界の核は・・・今のところアンタ以外に候補はいないわ


そこに間違いがないか、答えなさい」


今は力無きルビィだが、有無を言わせる余裕もないと見た。

簡潔に、そして強く要求する。

普通の交渉ならば、まず上手くいかないはずのやり取りだが。


「・・・凄まじいな、君は。

正答率は、7割といったところか」

「・・・へえ、残り3割を聞かせてもらおうじゃない」


最初は"無駄に聡い悪ガキ"と思ったが、それだけでは無いと老人は推察した。

普通の民であれば、まずありえない理解力。

ただ頭が良いだけでなく、相応な知識があるようにしか思えない。


もはや侮る道理はなく、相応に開示することに決めた。



「まず、私はこの世界の核だが、この世界の進行役は私ではない。

例えるならば、私は心臓で、ここには存在しない者が頭脳を担う


そして、君たちが飛び入り参加の役者であることは間違いではないが

新たな端役モブではない。


────君たちの立ち位置は、私の孫のはずだった

ああ、歳も恐らくは・・・君たちと変わらないか、下だろう・・・」



正答率7割───しかし外れた3割があまりに大きすぎる。

外れたことそのものに文句はない、ただ──



「────は?」



死に物狂いで生き残った自分たちが、本来はロウドとそう変わらない年齢の子供が一人で乗り越えた地獄だったということに


ルビィは言葉を失った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る