Chapter4「不完全の楽譜・肆」
「・・・やっぱり、現在のカミシロじゃないわね」
予定の通り、ルビィ達は他の囚人と共に騎士たちに囲われてカミシロの街を歩く。
当然、結界の外を目指して。
街を歩き、周りを見渡すことでルビィの仮説を確証に近づけてゆく。
ルビィが記憶する街で、古かった建物がこちらでは新品のように綺麗で。
逆に記憶にある綺麗な建物は、こちらでは様式が違う古びた建物だった。
それだけでは無い。
そもそも囚人達を集めた看守のリーダーの発言からして時代錯誤極まるものだった。
───貴様ら屑が犯罪すれば、怪物と戦わねばならない貴重な騎士を遣わせねばならない。それは重罪である。
とまぁ、要するにそういう理屈なのだが。
ルビィが思い出した歴史の知識では、それは効果が薄かったという。
呪われたカミシロの日常は停滞している。
最悪な事態を切除し続けてようやく生活が成り立つ。
つまり、発展を望めず絶望した人間が刺激を求めて罪を犯す。
そして、そんな理由で囚人になったものの大半は・・・早急な終わりを望む。
・・・そう、発展されない社会に囚人として生き続けるくらいなら、死んだ方がマシだという者が増えだした。
もはや"罰"としての機能は望めない。
よって若くして教皇として立ったカリストは、その制度を廃止した。
その歴史と、建築物の見た限りの経過年数で勘定すれば、おのずといつ頃か見えてくる。
「・・・ザッと約30年前、てトコね」
特定するにはもう少し決定的な情報が欲しいが、ひとまずこんなものだろう。
「・・・アンタ、大丈夫?」
散らかった情報が一つでも綺麗にまとまって頭に落とし込めていた方がいい。
これから地獄を見るのだから。
そうしてルビィは少しでも自分を落ち着かせる事ができる。
だが、ロウドは・・・?
「・・・はい」
「・・・しっかり握ってなさい」
手を繋いで歩くロウドはやはり震えている。
試しに、牢屋から出る前に看守に対して盲目や仮病でゴネてみたものの、どれも全く同じ用意されたかのような定型文で通じない。
仮説がより確定情報に近づくにつれて絶望感が増していく。
聞いていたロウドの歩きも覚束無くなるというもの。
建物はともかく、塗装された道はほぼ変化が無いというのに。
────ルビィの予想した通り、呪いの地は地獄だった。
「ッ、アンタ!まだ走れる!?」
「はっ・・・はっ、まだ、いける・・・!」
この時代、悪意の総量はルビィが生きていた時代より遥かに超えていた。
カミシロに絶望し、罪を犯し、死を望む。
それが増えれば増えるほど、人の数だけ悪意が増える。
それだけではない。
カミシロを守らんとする者たちもまた、囚人の惨たらしい死を望む。
"我々が粉骨砕身で働いているのを邪魔する人でなしめ、人の死に方ではない最期を味合わえ"と。
娯楽の少ない国や時代において、処刑や決闘は最大の娯楽だったのと同じように。
この制度が末期になればなるほど、同じくカミシロでもこの制度は人々の娯楽と化していた。
それに反応し、悪意の怪物は増えていく。
せめてもの救いは、ルビィが生きていた──即ち聖樹の加護による能力が運用されていた時代よりは怪物は弱いということ。
「邪魔なのよッ!!」
ロウドの手を引いて怪物から逃げるルビィの前に、別の怪物が道を遮る。
すぐにルビィは蹴りを放ち、木にぶつけてから更に頭を潰す。
こうして行き詰まった時は、素手の弱体化したルビィでも一体や二体を一時的に戦闘不能に追い込むことは可能だった。
しかし、この数では・・・
「ふざっけんじゃないわよ・・・!」
実力行使に必ず限界は来る。
聖樹の加護を持たぬ限り、怪物を殺すのは余程でもないと不可能。
あくまで時間稼ぎの域を出ない。
「る、ルビィ、さまっ、もう・・・」
「ッ、仕方ないわね・・・!口閉じてなさい!」
「んっ・・・!?」
そしてロウドの体力にも限界が訪れる。
さっき一体頭を潰したのが功を奏したのか、怪物の包囲網に穴が出来た。
その一瞬の隙に、ルビィはロウドを抱えて岩陰に飛び込む。
酷く汚れるが、呪いによる土や水が口に入らなければ許容範囲だ。
「っ、はぁぁ・・・アタシも、チョットくたびれた、かも・・・」
「ごめん、なさい・・・僕のせいで・・・」
「仕方、ないでしょ・・・。そもそも、大の大人でも、まともに生き残れないわよ・・・!」
現に、遠くでほかの囚人たちの悲鳴が響いている。
そして、断末魔も。
「ムカつく・・・!いけしゃあしゃあと言ってくれたわね・・・!」
看守のリーダーは、結界を超えた囚人たちに言った。
"結界の外ならば、貴様たちに制限はない。
なんなら、カミシロから逃げても構わない"
無理に決まっている。
怪物の質と数が違うとはいえ、呪いの地に踏み込んで生き残るのは騎士を除けば、運良く騎士に助けられたメイビスと、各国で最上級クラスの実力者複数名だった士郎たちくらいなものだ。
ましてや、カミシロは海に囲われた小さな島国である。
逃げる手段などない。
この制度では、事実上の死刑でしかなく。
生き延びる方法は、教皇御用達の"切り札"をおいて他はない。
それが来るまで何としても生き延びる。
それがルビィ達に許された唯一の手段だった。
「・・・このまま、切り札とやらが来るまで休みたいケド」
足音が幾つも増えて、近づいてくる。
時間が経過し、囚人達の数が減ってきたからだろう。
討伐期に駆り出された騎士たちも、一定数死者が出る。
むしろ本当の地獄はこれからだ、と言わんばかりに
悍ましい死が増してくる。
「嫌になるわね、ホント」
ルビィの頭の中で、暗い影が覆う。
ここが仮説の通り、現実ではないとして。
これがただの悪夢なら?
どうせ詰むのなら、それに賭けるのはアリではないか?
「───そんな、甘い話に乗れないわよ」
「ルビィ、さま?」
───などと、決行するには
傍らにいる少年は邪魔だった。
やはりここでやめてしまったら、自分自身を許せないだろう。
砂を払い、立つ。
岩陰に潜む猶予は、もう無い。
もう一度包囲される前に、動かなければ。
「走れる?」
「っ、う、うん・・・!」
充分に休んだとはいえないが、少しならば走れるだろう。
「じゃ、行くわよ・・・!」
もう一度、岩陰を飛び出して走り出す。
気づいた無数の怪物達は追ってくる。
包囲しきる前に走り出したのが幸いして、追ってくる怪物は全て後ろにいる。
もう隠れることは出来ない。
だが囲われることはない。
限界から限界より先に、走って走って逃げるのみ。
「はっ、はっ・・・!」
「ぜぇっ、ぜっ・・・!」
充分に休めなかったせいで息が上がるのが早いが、それでも
時が来るまで、走らねば。
「ひっ、き、きてる・・・!」
「わかってんのよ!喋ったら余計疲れるわよ!」
しかし無情にも怪物に距離を縮められる。
体力が失われ、どう頑張ってもペースが落ちてくる。
少年が感じた恐怖に劇を飛ばすも、時間稼ぎになりはしない。
いよいよもって、怪物の手が届く。
手を引かれて走る少年に、当然先に襲われ───
「ロウド・・・ッ!」
「ッ、ルビィ様・・・!」
咄嗟に、ロウドを抱き寄せて庇い
「─────ッ」
そして怪物の手が
────♪♪♪
届く前に
「は・・・?」
ピアノの音色が
「この、曲って・・・」
結界の外の全域に
聞いたことのある曲が、鳴り響く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます