Chapter3「不完全な楽譜・参」
「嘘・・・・・・どうなってるの・・・・・?」
反射的に、ならばと
呪いから解放されて代わりに得た能力──守護兵士の加護。
檻の向こう側に配置するよう発動しようとするも、何も起きない。
まるで、湧水の穴を栓で塞がれたように。
「何をグズグズしている!さっさと就寝準備しろ!」
「っっ・・・・・!!」
そんなあるはずだった力の発現が出来なかったルビィに看守は一喝する。
ルビィを知らぬとばかりに一蹴しただけでは飽き足らず
力を感知していないのか、或いは何の脅威とも思っていない対応。
それがルビィには酷く屈辱だった。
「あの、すみません・・・」
「ッ・・・!!アンタ、今は───」
「今の日付を、教えてくれませんか?」
一度怒髪天に至った上で空回りし、心に絶望が纏った瞬間。
庇護するべき対象が声をあげる。
看守からの脅威を恐れ、ロウドを止めようとするも遅し
ロウドは看守に質問の言葉を投げかけた。
「貴様に質問の権利は無い!慎め!」
「・・・・・・やっぱり」
しかしロウドに対して脅威が降りかかることは無い。
それどころか、ルビィの質問に対する回答と一字一句違いがない。
「・・・ルビィ様、やっぱりこれ、おかしい」
「─────」
ロウドが投じた質問という一石。
先にロウドが覚えた違和感を、ルビィに伝えた瞬間。
冷水を被った金属のように、冷静さを取り戻した。
そして、煮えていた頭では考えられなかった部分に手が届く。
明らかに時代錯誤な政策。
一言一句、変わらぬ対応。
そして、自身を正しく認識しない。
「・・・ああ、そう。そういうコト」
直ぐにルビィは有力な仮説にたどり着いた。
「何をグズグズして───」
「ああ、はいはいわかったわよ。悪かったわね」
「分かれば良い!!」
質問とは別に、必要か不必要か関係なく
ルビィは必要な
それを聞いた看守は、あっさりと去っていった。
「・・・・・ふぅ、悪かったわね。またアンタに助けられたわ」
「・・・・・?」
「分かんないならいいわよ」
情けない話だが、ロウドの投じた一石がなければ
有力な仮説にたどり着くまでに一晩はかかっただろう。
それくらい冷静では無かったし、自分が存在するカミシロに固定概念に囚われていた。
「・・・・・それにしても、よく気づけたわね」
「う、うん・・・。なんか、演劇のセリフを、何度も繰り返してるみたいで・・・」
「・・・演劇、ね」
なるほど演劇とは、言い得て妙だとルビィは感心する。
討伐期だの、それに同行だの、有り得ない遠く離れたはずの脅威を耳にしてその違和感にたどり着くとは。
「・・・・・ルビィ様が、怒ってくれたから」
「〜〜〜〜ッ!あ、そう・・・」
素直に感心した傍から少年の一言。
自分より遥かに怒り狂ってる人がいたら逆に冷静になる───という現象に似ているのだろうが
きっとこの少年は無自覚で、むしろ感謝すらするだろう。
腹立つやらムズ痒いやら、追求したらまた変な感情になりそうだったので打ち切ることにした。
「話を戻すけど、演劇の例えはいいセンね。
あくまで
「は、はいっ・・・」
直ぐさま話を本題に戻す。
少年の純朴さに調子が狂うことはあるが、こういう素直なところは助かっている。
「演劇を聞いたことあるなら質問だけど、アンタ演劇でどんなに辛い展開でも声をかける?」
「えと・・・かけない。迷惑だろうし、かけても話が変わるわけじゃないし・・・」
「そう、多少の
演劇には、介入して話を変える余地がない」
じゃあどういうことなのか。
そこまでは流石に考えが至らずロウドは首を傾げる。
しかし、演劇という例えの擦り合わせが出来ているなら
「つまり、いまアタシ達がいる場所は現実じゃない。
アンタの思う、演劇の世界に近い。
そしてアタシ達は、その
「・・・・・・!!」
その例えに応じて現在の状況を伝えれば、この通り。
何となくのイメージが固まったロウドは息を呑む。
「アタシを知らないのも、アタシたちの囚人番号をノイズで遮られたのも
どんな質問も行動に対しても決まった台詞しか返さないのも
今の演劇みたいな世界がアタシ達を想定してないから。
アレがいま出来る、精一杯の
ルビィは恐らくこれだろうという仮説を説明した。
ここまで得られた少ない情報で、この仮説にたどり着いたのは間違いなくルビィという"強い"存在故に。
「凄い。もうそんなにわかったんだ・・・」
「お褒めの言葉どーも。
・・・けど、あまり状況は良くないわ。
だって、アタシの力が封印されてるもの」
「えっ・・・」
ここが自分たちの知る現在のカミシロでは無いことは分かった。
だから、じゃあどうすればいいかは全く見えてこない。
しかもルビィの象徴といえる力も扱えない。
武器や兵士を呼び出せないどころか、どういう訳だが力も上手く入らない。
これでは良いとこ、加護を使わないルフトと同等くらいだろう。
つまり、上級騎士の中では下位くらい。
ルビィの全力の半分すら至らない。
「・・・・・全部は、この世界の明日を待つしかないわね」
それはつまり、看守の言う討伐期の同行に甘んじて参列しなければならないということ。
どう足掻いても、弱体化したルビィと戦う力など無いロウドは、カミシロにおいて最も危険な地に赴かなければならない。
ルビィはその呪われた場所の恐ろしさを、痛いほどよく知っている。
「・・・安心しなさい、アンタはちゃんと守ってアゲル。
じゃないと、アタシのプライドが許さない」
「・・・ルビィ様、ありがとう」
やはりそんな少年に、明日避けられない脅威を聞くのは辛いだろう。
育て上げられた一級品の戦士すら恐れる場所に、どう足掻いても立たされる。
それも何も見えない少年が、全方位どこから来るかも分からない死に備えなければならないなど、発狂してもおかしくない。
ロウドは手が震え、ルビィの手を強く握る。
無理もない──少なくとも、とても邪険には出来ない。
むしろこの程度に済んでいるだけでも、充分この少年は強いと言えるだろう。
「・・・寒いでしょ、ここ」
「ぁ・・・」
「・・・今だけ、特別だから」
牢獄は寒い。
ここは冷たい石と、品質の悪い毛布しかないから。
そんなものは理由の半分に満たない。
命を賭けて守る意味を知った。
その温かさは、どうしてもルビィには悪いようには言えなかった。
今回も、きっとそうなるから。
ルビィはロウドを抱き寄せて、質の悪い毛布を纏う。
「このまま、一緒に寝てアゲルから」
悪い夢のような話だが
そんな悪い未来しか見えないこの場所で生じた温かさは
やはり、悪く言えないものだった。
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