政府公認:家出サポートアプリ
ちびまるフォイ
代替家族
「どうしてお正月だからっておモチなの!?」
「そりゃ伝統だし……」
「私はお正月でもパンが食べたいの!!」
「もう準備しちゃったんだから食べなさい」
「もういい!! 家出する!!!」
どうして両親は自分の気持ちをわかってくれないのだろう。
こんな家で生活していても自分の心がねじまがるだけだ。
一刻も早く家から、家族から離れたい。
すぐに家出アプリを立ち上げた。
『こんにちは。私は家出アプリの"カクレガ"だよ』
「お願い、家出サポートして!」
『もちろん。日程はどのくらいにする予定?』
「わかんないよそんなの!」
『それじゃ一旦3日で家出アテンドするね。検索中……』
「ねえまだなの!? 公園じゃすぐにバレちゃう!」
『家出先が見つかったよ! 住所を送ったから地図を開いてね』
地図アプリにはどこかの一般家庭っぽい家の住所が表示される。
迷わず向かってインターホンを押した。
「いらっしゃい。あなたが家出アプリの?」
「はい、お邪魔します……」
ヤバいおっさんが出てきたらどうしようかと思ったが、
寮母さんのような優しそうな人で安心した。
「理由は聞かないけど、家出してきたんでしょう?」
「はい……」
「まあ、心が落ち着くまでゆっくりしていきなさい。
うちはあなたみたいな人を何人も迎えているの」
リビングにつくと、同じように家出してきた人がいた。
家出アプリでこの家にやってきたのだという。
「父親がマジでクソで」
「学校が嫌になったんだよね」
「家族のしがらみがウザくなって……」
その理由はさまざまだった。
家出してきた自分が聞くのもおこがましいが興味が湧く。
「ねえ、家に戻りたいとは思わない?」
「「「 ぜーーんぜん 」」」
「あそうなんだ」
「ここにお世話になってるのも次の場所を探すための中継地点。
家に戻るつもりなんてさらさらないよ」
「へえ……」
「そういう子、けっこういるよ。
今は家出アプリのおかげで安全に家出できるし」
昔は自分自身で家出先を探したりする必要があった。
リサーチが不十分だったりすると危険な家に行ったりするリスクもあった。
けれど今は認可された家だけが案内される家出アプリがある。
安全に家出ができるようになって、家出する人は多いという。
「それで、あなたはどうして家出を?」
「え……」
逆に聞かれて言葉がつまった。
つい先ほどまでは親の暴力から逃げてきたり、
家族からの過大な期待に絶えきれず家出した理由を聞いていた。
自分の家出理由はあまりにちっぽけでバカバカしい。
あけっぴろげに話すのは恥ずかしかった。
「ち……父親に殺されそうになった……から?」
「それもう家出のレベル!?」
とっさにウソをついてしまった。
他の家出した人からも気を使わせるほどに心配された。
「それじゃもう家には帰れないよね。
次の家出先は決めてるの?」
「え?」
「この家にもずっといられるわけじゃない。
家出アプリの規定日数を過ぎたら家出しないと。
私たちは渡り鳥みたいなもの。次の場所は?」
「ええと、考えてなかった……」
「家出アプリで次の候補を探してもらおう。
次も一緒の場所に家出しようよ」
まるで旅行の宿泊先でも決めるテンションだった。
悲劇のヒロインとして祭り上げられていることに居心地の悪さも感じる。
今はあんなに嫌だった家に帰りたいほど。
「ほら家出アプリ立ち上げて」
「う、うん」
言われるがままにアプリを立ち上げた。
なにかメッセージが来ている。
通知マークに誘導されるままメッセージを開く。
『家出アプリへのログイン:1件』
ー両親から家出アプリへのログインがありましたー
「え、え? これどういうこと?」
「きっと親があなたの居場所を家出アプリに問い合わせたんでしょ。
でも大丈夫。あなたが承認しなければ居場所はバレない」
「そう……」
「いなくなってから慌てて探したんだろうけどさ。
親って本当にクソ。いるときに大切さを認識しないんだから」
親をディスるその言葉もすでに耳へ入ってなかった。
自分の親が自分を心配してくれている。
そのことを知ったら、心配かけている自分への罪悪感がとまらない。
「私、やっぱり家に帰らないと!」
「あちょっと!? 次の家出先は!?」
「もう家出はしない! 私には家があるから!」
走ってもとの家にまで向かう。
見慣れた玄関がまちどおしい。
家から離れて自分の居場所がどこにありたいかを自覚した。
私は本当に家出したいわけじゃなかった。
単に両親に大切にされていることを知りたかった。
それを家出を介してわかればよかったんだ。
自分の家が見えてくる。
ドアは開いていた。
「ただいま! 家出してごめんなさい!!」
ドアを開ける。
そこには家族の団らんが広がっていた。
「いやぁ、うちにも前に君と同年代の娘がいてね。
家出してしまってから家がさびしかったんだよ」
「部屋は娘のがあるから思い切りくつろいでね。
ああ、家出アプリいれてよかったわ」
「はい! お邪魔します!!」
幸せそうな家族の風景を見て言葉を失った。
両親がアプリにログインしたのは自分を探すためじゃない。
「私の代わりを探すために……」
私はふたたび家出した。
政府公認:家出サポートアプリ ちびまるフォイ @firestorage
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