第四章

4-1.続く日課

季節の進む力は、普遍で強い。今日から衣替えで、半袖の制服にカーディガンを羽織った高校生が自転車で通り過ぎていく。


「ああ、今日は古紙ごみの日だったのに……」


この辺りでは、古紙ごみは月に一度しか回収しない。今日のためにきちんと束ねてあったカタログの山を見てため息をつく。酒屋はこうしたカタログの類が多いのだ。……父が集めすぎていただけかもしれないが。


この家で暮らすようになって、もう一年が過ぎた。とりあえず預かっているだけだとは言え、置きっぱなしになっている故人の荷物を片付けるのは家賃のようなものと諦め、せっせと片付けを進めている。

 

「まあ、古紙は腐らないし、いっか。修さんがいたときは、ごみの出し忘れがなくてよかったなぁ」

 

修さんは、三か月たった今も、結局消息不明。まあ、消息不明というか、あの時期が三月だったことを考えれば、普通にまた、転勤したということなんだろう、と自分の中でひとまずの決着をつけることができるようにはなった。

 

「まったくもう、ちゃんとお別れの挨拶くらい、していきなさいよね。いい歳なんだからさあ。」


もう、事故のニュースを追うことはなくなった。剛や彩ちゃんと、修さんってたぶん、あそこの会社にお勤めなんじゃない?なんてふざけて言い合った会社のプレスリリースを追うこともない。救急車や消防車が通るたびに目を覚ますことだってない。健康な人間は、三カ月もそんな状態ではいられないのだ。


「美音さーん、お届け物っすー」

 

和也君が、お酒の入った段ボールをいくつかと、お酒のカタログが入っているメール便を運んできてくれる。


「和也君、おはよう、早いね。……ああ、またカタログが増えた。」


「ふふ、それ、出し忘れっすか?」


「そうー。今日のために散々頑張ったのに!」

 

「まあ、カタログは、腐らないっすからね。あ、美音さん、これ、目の疲れに効くらしいっす。お客さんにたくさんもらったんで、おすそ分けっす!」

 

「えー、アイスパックと、カモミールティ?」


「いったん冷やした後、あっためたり、そのお茶のティーパックを瞼に乗せると、腫れが引きやすいっす。……って、いつか誰かに聞いたっす!」

 

和也君にしては珍しい言い間違いを、しかし指摘するような無粋なことはせず、改めて御礼を言って受け取る。代わりに聞くのは、和也君の最近のブーム。


「んー、最近はスパイスカレーが食べたい気分っす。エスニック全般、気分っすかね、これからそういう季節になるっすから!」


和也君はにこにことして、また風のように次のお届け先に出かけて行った。

 

もう、お客さんが「旦那さん」について触れることはない。日常が更新されるのもまた、季節と同じだけ早い。

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