3-2.名前のない二人

「そうだ、佐藤さん」


このあたりの救急車はみんな、佐藤さんの病院に集まるようにできている。佐藤さんに聞けば、修さんが運び込まれていないかわかるんじゃないか。


思いついてすぐに、何を言っているんだ。そんな患者さんの個人情報を教えるわけがないじゃないか。


第一、わたしはどの立場で彼の安否を尋ねるのか。この状況に置かれて痛感する。わたしには、病院にも、不動産会社にも、彼のことを尋ねる正当な理由などなにもないのだ。


不動産屋にはさすがに、倒れているかもしれないから、中を確かめたいと言って聞いてもらえるかもしれない。しかし、そもそもわたしは、彼があのマンションの、どの部屋に住んでいるかも知らない。


それどころか、彼の連絡先も知らないじゃないか。


いつの間にか、かけられる声もすべて、「頑張れよ」と「大丈夫か」に代わっていた。

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