2-11.やじるし商店街の国境

1月末の修さんのお誕生日には、真冬なのに、みんなで花火で遊んだ。子どもみたいに笑う修さんの、普段とのギャップがまた、わたしのこころを柔らかくほどく。


2月に入るころには、お休みの日はいつも、ふらりと修さんが店に顔を出して、特に何をするでもなく一緒にカウンターにいたり、裏の事務所にいたり、そんな時間がますます増えた。


常連さんには、「旦那さん」「奥さん」なんて言われることも増えて、別に敢えて訂正することもないか、と思って笑顔で応じる。修さんも、別にそれを否定する様子がないのが、ますますわたしを安心させた。


ある日、修さんがいつも通りふらりと店にやってきた。いつも通りじゃないのは、彼の手に、花束。感情を感じさせない無機質な印象の修さんと、感情を集めて形にしたような、存在感の大きな花束のちぐはぐさに思わず笑ってしまいながら話しかける。


「おや、修さん。国境でお買い物ですか?」


「なんのことだ?」


「ふふふ、我が国と、修さんの国の間はお花屋さんじゃないですか。だから、国境。だんだん、お花の種類も増えてくる季節になったねえ。」


「なるほど。」


ふわり、修さんが笑う。言葉の数も表情も多くはない人だけど、この人は空気で伝える人だな、そんなことを考える。


「あげる。」


ふと、修さんが花束をわたしに。


「どうしたの?」


尋ねるわたしに、もう修さんは説明する気もなさそうだった。修さんは、こういう気まぐれなところがある。


「まあ、嬉しいから、いっか。」


大切に飾り、またいつもどおり。わたしは仕事、修さんは何か難しそうな本を読んでいる。特に話すでもなく、日常が流れていった。

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