2-9.当たり前の回復

結論から言うと、翌朝、修さんはいつも通り、朝5時にいた。あまりにもいつもと変わった様子がないから、こちらもいつも通りに挨拶をして、見送った。


そうだった、これが「普通」なのだ。朝のゴミ出しや、夜の町内会活動をたった一日不在にすることなど、何の変哲もない。わたしだって、修さんに合う前はゴミ出しなど、決まった時間に行かなかったではないか。それどころか、平気で翌週に回してしまうこともあった。何もおかしなことなどないのだ。


夜も、当たり前にいつもの定位置にいて、今日終わらせねばならない作業を黙々と進めていた。


昨日のこともあったので、大丈夫だったよ、ということを剛の店に知らせに行くことにした。夕飯がまだだという修さんと宏さんも一緒にドアを開けると、こちらを見た瞬間、商店街中の壁という壁からこだまが返ってくるのではないかという怒鳴り声が響く。


「修、美音を泣かせるんじゃないよ」


慌てて扉を閉める。こんなことは日常茶飯事だとわかっている店内は、全く意に介する様子もなくいつも通り食事を楽しんでいる。おろおろと慌てているのはわたしと宏さんぐらいなもので、言われた修さんものんびりした様子で首を傾げた程度。


「何のことだい?」


ああ、心配をかけすぎてしまった。慌てて、弁明する。


「いつも決まった時間に来ている人が連絡もなく来なかったから、心配してしまって。」


引き続ききょとんとしていた修さんが、なるほど、という顔で笑う。


「そういう時はね、呼べばいいんだよ、修ー!って」


いやいや、当のあなたがそこにいないのに、呼んでも意味ないでしょうよ。心の中でそう言いつつも、一般常識に照らしたら、明らかにわたしの方がおかしいにもかかわらず、こうして笑って深入りせずにいてくれた、そのことに心からほっとしていた。


この機会に、連絡先を交換したいと申し出た。何かあったら心配だから、と。


しかし修さんは、少し考えるような間を置いてから、


「いつも決まったところで会うだろ。――それで、いいんじゃないか?」


と言って、いつものように柔らかく笑った。


それは拒絶というほど強いものではなく、ただ、話はこれでおしまい、という、ある一定以上は踏み込ませない癖のようなものに感じられた。


彼はいつも通りの笑顔なのに、わたしの胸だけが、すっと外気温に溶けた。

 

それでも、彼はもう心配しなくて大丈夫だよと安心させるように、それからまた毎朝毎晩、いつもと同じ場所にいてくれた。


お互いが必ず見える、対角線上の椅子。作業を進めながら、いつも同じ姿勢、同じ呼吸でそこにいてくれる修さんを見ることが、また当たり前に戻っていった。


「明日だな」


ふと、修さんが言う。


「明日?」


全く思い当たる予定がなくて、何か大事な約束を忘れているのだろうか、と一生懸命頭の隅から隅まで検索する。修さんは、それを見て楽しそうに笑っている。


「明日、ミオが考えたグッズの」


――覚えてたんだ。


「楽しみだな」


「楽しみだね」


簡単な、楽しみだね、という言葉だけの交換。それなのに、わたしの心は、ちゃんと形を取り戻した。

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