2-5.ノイズ
それからも、佐藤さんは仕事帰りにふらりと現れては、買い物もせず、冬まつりの話を気が済むまで話し、帰っていくことが続いた。
あまりにも辟易して、神聖な朝の、修さんとの時間に、ついため息が出る。
「どうした?」
修さんが尋ねる。思えばずいぶんと、朝ため息をつくこともなくなっていたな、と気づく。
「佐藤さんがね……」
つい愚痴を言ってしまいそうになり、慌てて舵を切る。
「そういえば、冬まつりの準備は順調?」
「順調といえば、順調だな」
修さんに聞いたのが間違いだった。この人は、説明をしないのだ。
「宏さんのとこだっけ、八百屋の。いつ準備してるの?」
「毎日」
「毎日?仕事あるでしょ?終わってから毎日行ってるの?」
「そう」
「今日もやるの?顔出していい?町内会なら、わたしも入ってるし」
「それも、面白いかもな」
修さんは相変わらず、感情が読めない声色で、でも拒絶はされなかった。
店は19時までで、閉店作業を終えて、20時に、はす向かいの八百屋に行く。店主の宏さんは、わたしの小中の先輩。頑固だけど優しいおじさん、お話し好きなおばさんに育てられた、気の優しいお兄さん。でも、イベントを仕切るリーダーのようなタイプじゃなかったような。
そんなことを考えながら、裏口から入る。奥の倉庫が会議室兼準備会場になっているらしい。中に入ると、宏さんと修さんが、黙々と作業をしている。
「こんばんは」
「みおちゃん、どうしたの?」
宏さんが、人のよい笑顔で顔をあげる。目の前には書類の山。それを、機械のように正確な速度で片付けている修さんは、今は集中しないといけない状況のようで、こちらに反応はない。
「わたしも手伝おうかなと思って。」
「助かるよ~~~~~~」
心底ありがたい、という顔と声で宏さんが言う。作業スケジュールと分担、進捗を確認すると、なんとまあ、本来10人くらいが期日まで毎日フル稼働しないと間に合わないような計画を、修さんがほぼ一人で、進めている。宏さんもやってはいるのだが、宏さんが1終える間に、修さんは3終えている計算になる。
「よく、やってたね」思わず口をつく。
「佐藤さんは?」
「ユウトは、仕事だな」ようやく集中しなければいけない計算作業がひと段落ついたらしい修さんが、いつものような柔らかさで答える。
あいつ、やっぱりそういうやつか。苦虫を嚙み潰したような表情になりつつ、「これと、これはたぶんわたしの得意分野だから、やるね」全体の4割程度を引き受けた。
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