1-7.親しみと境界
出来れば、その日が来るまでの一日が72時間くらいになればいいのにな、と思う納期というものがある。わたしにとっては、朝のゴミ出しの、彼と会う次の収集日がそれで、あれだけ笑い飛ばしてもらっても、家でゴミをまとめていればまた思い出す。その日は、すぐにまたきた。
時間をずらそうかな、という狡い気持ちももちろんあったが、あの日のことを謝りたいと思う気持ちが勝り、いつも通り朝5時に外に出る。彼の方が来ないという選択肢ももちろん頭に浮かんでいて、人から拒絶されることへの恐怖を、前の家で暮らしていた時ぶりに感じていた。呼吸が浅い。しかし、彼はいつも通り、いた。
「おはようございます。」震えそうになりながら声を変える。
拍子抜けしそうなほど、いつも通りの「おはよう」が返ってくる。何も変わらない。姿勢も、眼差しも。
「この間は、変なことを聞いてしまってすみませんでした。」わたしが言うと、まるで顔全部が「?」のマークになったような表情を浮かべた彼が、「何のことだ?」と言う。
「お仕事のこと」
「ああ」
腑に落ちた、という様子で相槌を打つだけで、それ以降何も言葉が続く様子はない。怒っているのか、まるで気にしていないのか、まったく読めないが、少なくともこの話はこれで終わり、という姿勢のようには見えた。
「行ってらっしゃい」
「またな」
いつも通りの朝の別れのルーティンが、その日も、そしてそれ以降もまた、まるで何も変わらずに続いた。
わたしの周りにはいなかった生活時間と衣服を身に着けたその人は、親しさと距離感もまた、わたしがこれまでの時間で培ってきた価値基準とは違ったものを持っている人なんだな、そんなことをまた、ぼんやり考えて、しかしそんな違和感も、なんとなく当たり前の日常として、気が付けば溶けて行った。
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