1-3.当たり前の朝

その日のうちにきちんとネットを買ったらしい彼とは、その後も同じ時間に、路上で会うようになった。


簡単な挨拶と、季節の移ろいの話、例えば「夜が明けるのが少し遅くなりましたね」とか「羽織るのがパーカーだとちょっと寒くなったなあ」とかそういう気軽な雑談をわたしが一方的に投げては、彼が「そうだな」と笑って、また「行ってらっしゃい」、で締めるようなやり取りをする。


最初、ゴミの出し方で途方に暮れていた彼ではあるが、分別の仕方などは1度も聞かれたことがなくて、きちんと自分で調べて実行する力がある人なのであろうことは、朝のこの短い時間の中だけでもよく分かった。


相変わらず、この街では見かけないような質のスーツ、靴。その辺の量販店でとりあえず買ったのではなく、きちんとサイズが彼に合ったもの。たぶん、内側に名前がきちんと刺繍されている類だと思う。祖父のスーツがそうだった。自分の立場や、求められる姿をちゃんと知っている人なんだろうな、と思う。


その割、この間乗っているのを見かけた彼の愛車は高級車ではなく扱いやすそうなSUVで、しかし彼らしくいつもきれいに手入れされているのが、とても自分の在り方を理解している人だな、と思わせた。


もう、ここで会うこともまるで当たり前みたいになっていたから、わたしはつい気安い気持ちになっていた。わたしが何か投げかければ、いつも彼は柔らかに受け取ってくれるから。

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