第4話 あのね

晴芽が寮の大浴場で汗を流してから自室の机に向かって数十分。目の前の数学の課題は手付かずだ。


(ゆあが部屋にいる。でもさっきから一言も喋ってくれない……)


いつもは1人でずっと何やら晴芽に話しかけているのに、今日はそれがない。

それもそのはず、ゆあは恋人の甘える姿を目撃してしまったのだ。

普段通りにいられるはずがなかった。


それを知らない晴芽の焦りと不安は増すばかり。


「ゆあ……今日はあったかかったね」

「……そうですね」


当たり障りのない話題を出しても、


「そういえばクラスの子が私たちの話をしてたよ」

「そうですか」


食いつきそうな話題を出しても、ゆあはそっけない回答ばかりする。


(私、ついに嫌われた!?いやだ!謝る?でもそれが油を注ぐようなことだとしたらどうしよう……)


嫌な汗がお風呂上がりの晴芽の背中を流れる。


「そろそろ私お風呂の時間なので行ってきますね」

「う、うん。行ってらっしゃい」


ゆあはお風呂セットを持って部屋を出ていく。

今日は勉強の邪魔もしていかずに。




***




ゆあはパタンと部屋の扉を閉めて小さく息をついた。


(いざ甘やかそうとするとどうしたらいいのかわからない……!)


晴芽が甘やかされたがっているのを知れたのはよかったものの、そこからどうすべきか頭を悩ませる。

ゆあを気にしてか、晴芽が勉強に集中できていないような気もする。




「ゆあ〜どうした?なんか悩みごと?」


大浴場の更衣室で友達が声をかけてくれる。

クラスも同じ、ゆあの1番の仲良しさんだ。


「あのね……」


ゆあは今悩んでいることを包み隠さず話す。

すると友達はきょとんとして、次の瞬間、大丈夫だよ!と笑い出した。


「なんで笑うの!」

「いやぁごめんごめん。可愛い悩みだなぁと思ってさ」

「真剣に悩んでるの!」


服をひとつずつ脱ぎながら話は進む。


「ああいう真面目そうな人ほど女の子なんだよって言ったのゆあだよ?チョロいんじゃないの?」

「確かに言ったけど私が女遊び激しい子みたいに言わないでよ……。私は先輩みたいな人を甘やかして独り占めしたいの」

「ほーう。ってことはしっかり者そうだったら誰でもいいってこと?」

「ちがう!!」


ゆあは脱いだシャツで友達を叩く。

分からず屋め。


「そのまま言ってみたらいいんじゃない?晴芽先輩ならゆあの話ちゃんと聞いてくれるよ」


私よりね、と友人は続けた。


「ありがとう……」


わざとふざけたことを言っていたのかもしれない、と、ゆあは叩いてしまったことを反省する。


「それにさぁ」


上から下に、下から上に、友人はゆあの何ひとつ纏うものがなくなった体を見てニヤついた。


「立派なボディをお持ちなんだから、誘惑してみたら?」




***




(なんなのあの子は!反省した私が馬鹿みたい!)


本日の役目を果たしたお風呂セットを手に、ゆあは怒りの足取りで部屋へ戻る。

部屋には珍しく布団で単語帳をめくる晴芽がいた。この時間はまだ机に向かっている時間だ。

ゆあが不思議に思っているとおかえり、と、声をかける。まるでゆあの帰りを待っていたみたいに。


(ちゃんと聞いてくれる……か)


それはそうだろうなと思う。

晴芽は人の話を馬鹿にする人ではないことくらいゆあにもわかる。


「先輩あのね」

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