第2話 晴芽先輩を甘やかしたい
寮の食堂で夕食を食べ湯船に浸かったあと、友人との会話に花を咲かせていたゆあは消灯時刻ギリギリになって晴芽が待つ部屋に戻って来た。
「せんぱぁい聞いてくださいよぉ……って、先輩?」
友達に惚気話を散々聞かされてうんざりしたゆあは晴芽にも聞いてもらおうと声をかけた。
だが、晴芽からの返事はない。
「先輩?」
床にうつ伏せになっている晴芽を横からひょいっと覗き込む。
(またかぁ)
他の人が見たら何かあったのではないかとぎょっとする場面だが、ゆあには慣れっこなことだった。
机の上にノートや教科書、筆記具が広がっている。
「んん……ゆあ……?」
「先輩、こんなところで寝ていたら風邪ひいちゃいますよ」
「う〜もうちょっとだけ……」
晴芽は目を閉じたまま口だけを動かした。
(これ、このまま寝ちゃうやつだ)
よく見る光景に、ゆあは微笑む。
晴芽は真面目に予習と復習をして、寝る時間になると布団に行こうとするのだが、布団にたどり着く前に床で寝てしまうのだ。
これはゆあしか見られない、晴芽のちょっと抜けているところだった。
(先輩かわいい)
こんなに無防備な姿は彼女であるゆあだから見せているのか、ただ疲れているからなのか。前者であってほしいなとゆあは思う。
「よいしょ」
ゆあは自分よりも背の高い晴芽を慣れた手つきで抱き上げて、布団へ運ぶ。
布団に寝かせると、シャンプーの甘い匂いがふわりと香った。
「ゆあ……」
「!」
まだ起きていたのか、とゆあは驚く。いつもはぐっすり寝ているはずなのに。
「ありがと……」
うっすら目を開けて、ゆあの腕に顔を擦り寄せながら言う晴芽。
完全に寝ぼけている。
じっとそのまま様子を伺っていると、プツンと糸が切れたように晴芽は眠ってしまった。
(……もう少し甘えてくれてもいいのに)
長い髪を撫でながらそんなことを考える。
頑張り屋さんの晴芽を、ゆあは後輩として、彼女として、めいっぱい甘やかしたかった。
もちろん自分が甘えるのも大好きだけれど、晴芽に対しては特に、甘えてほしい欲がわんさかと出てくる。
(先輩は甘えられる方が好きなのかなぁ……)
あのしっかり者がとろとろに甘えてくる姿をゆあは見たかった。
そんな晴芽をとことん愛したかった。
(言えないなぁ)
言ってもきっと、私は甘えられる方が、とかなんとか言って断られるだろうから。
眠っている晴芽の唇を指でそっとなぞる。
潤って艶がある唇はゆあを誘惑しているようにも思えた。
ゆあはそっと近づいて、じっと見つめて、そっと自分の唇を重ねた。
「……せんぱいだいすきです」
気持ちよさそうに眠る晴芽。
「もっと私に甘えてくれてもいいんですからね」
願わくば私に寝かしつけをさせてほしい。そうして私がいないと眠れないようにしたい。
夢でもいいから甘える晴芽が見られますように。
部屋の電気を消す。
ゆあはもう一度晴芽にキスをして、自分の布団に戻った。
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