第2話-欠ける月
お手紙ありがとう。
まさか生きているうちにお返事がくるなんて。それも、届いてすぐに書き上げたような素早さで。
ところどころ、震えた文字があなたの動揺を示しているようで、それが私には嬉しかったです。意地が悪いかもしれないけど、それだけ私の存在を惜しんでくれてるんだって。
でも、私なら大丈夫。また、あなたの言葉に救われました。
新月は月の死じゃない、月が欠けるのは消滅ではなくて、見えなくなるだけだ。
だから、私は死んでもあなたの中に生き続けるのだ、と。
その箇所は、あなたの心から直接迸ったように、特に乱れた筆跡で書いてありましたね。
あなたは、それでいいんですか? 死者に縛られるのはつらいことでしょう?
手紙に向かって何度も問いかけながら、私は泣きました。
あなたの言葉を信じます。ありがとう。ありがとう。
今日の空には下弦の月がどこか気だるげに浮かんでいますが、今の私には、地球の影に塗りつぶされた残りの半身を思い描くことができます。あの影が次第に領土を広げ、月が儚くなっていったとしても、もうその光景を恐ろしいとは思わないでしょう。
あなたなら、きっとわかってくれますね。
それは恐ろしく悲しいだけではなく、偉大で不思議な宇宙の法則なのです。
大自然の深呼吸によって月は満ち、また欠けていく。
私の命だって、同じところから生まれ、実るように育まれ、息を吐ききるように失われるだけ。
そういえば、いつもお世話になっている看護師さんが、こんなことを言っていました。
私にとって「死」の象徴である新月は、実は「再生」を象徴しているんですって。
文字が示すように、これから新しい月を生み出す闇、いわば胎盤なんですって。
言われてみれば、夜空の黒は、虚無ではなく混沌のようにも見えます。
グツグツと煮えたぎって生命を孕む原初の海も、きっとあんな闇色をしていたのでしょう。たとえ闇に還ったとしても、また同じ闇から生まれ出ることができるのだと思えば、むしろこの世で一番優しい色彩のようにも見えます。
そんな新月の夜には、願い事をすると叶いやすいとも教えられました。今までの自分を捨て去り、生まれ変わったような気持ちで、新しい道を歩み始めるのにはうってつけの日なんですって。
だから私も、新月の夜に祈りを捧げてみようと思います。
すべての準備はもう済ませました。願い事を書いた手紙を用意して、新月の夜になったら夜空の見える窓辺に置いてくださいとお願いしたから、大丈夫。
私の身がもたなくても、意識があやふやでも、月はきっと影の向こうから見ていてくれるはず。
あなただったら、新月の夜にはどんな願いを捧げますか?
もし、遠い異国の地で、私のために祈ってもいいと思ってくれるのなら。
どうか私の願いが叶うようにと、祈ってくださいね。
それでは、さようなら。
お返事をくれて、ありがとう。
またあなたの優しさに出会えるとは思っていなかったので、嬉しかったです。
どうかお元気で。
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