2-2
一か月後、おれは松本さんに言われたとおりに、大学時代の仲間を誘って飲み会を開いた。メインゲストの高梨さんは、「飲み」まで言ったところで、
「あー、やめとく」
あっさりと却下してきた。
「わたし、これでけっこう人見知りなんだよね」
嘘コケ! と言いそうになった。同期入社は十人。何となくよそよそしい感じなのにみんなに声をかけ、率先して挨拶し、飲み会でも自分は少しも飲んでないのに盛り上がってたのはあんただろ! と言いたくなる。
まあその時にとなりに座って、「よろしくね」と、あのアニメ風のセクシーボイスで言われ、にっこりとほほ笑まれてそのままノックアウトされたということはとりあえず置いておく。
いやがるのをあーでもない、こーでもないと言いくるめて、ようやく「うん」と言わせた。そしてもう一人のメインゲストの一条も、
「なんでお前の大学の飲み会に俺が行くんだよ」
と、ご機嫌斜めだった。最終的に「仕方ねえな」と答えたのは、「同期の女子には全員声かけるつもりなんだ。松本さんも来るし」と言ったあとだった。
だからてっきり、松本さんのことが好きなのかと思ってたのだけれど。
なんか色々、面倒なことになってしまった。
飲み会の後すぐ、また松本さんから招集がかかった。今度はハンバーガーの店だった。ダブルパティのチーズバーガーを頼んだのに、パンを外して取り分け用の皿に乗せた。
「もしかして、小麦粉ダメな人?」
「ううん」
松本さんは全く悪気なさそうに言った。
「グルテンフリーの食事を心がけてるの。気のせいかもしれないけど、小麦製品やめてからなんかお肌の調子がいいのよね」
って、じゃあなんでバーガー頼むんだよっ! メニューにはロコモコだって、ハンバーグステーキのライス付きだってあったのに!
……って言いそうになるのをぐっと飲みこむ。
「ねえ、あれ、実際はどうなの?」
松本さんはじろりと音がしそうなくらいにおれを見た。
「あれ、って」
「結局、高梨さん持ち帰られちゃったんでしょ?」
ぎくっ、と、音がしそうなくらいに、体がこわばった。
いや、それは……。
「大谷君、信じらんない。自分の飲み会なのに、ああいういかにもワンチャン狙ってそうな男の人を誘っちゃうとか、好きな人をみすみす持ち帰らせるとか」
いや、違う。違うんだよ。
言いたいのだけれど、どこから説明していいかわからない。今、会社の中では、「高梨さんが武田先輩に持ち帰られた」という話が蔓延している。
でも、ワンナイトを誘っているところに一条が現れて、高梨さんを助けた。……というのは、一条と高梨さんの話だ。けれど当の武田先輩は……持ち帰った、って主張してんだよな……。
それもなんか……すごかった、みたいな。武田先輩の言う高梨さんというのがとにかくすごくて、過激で、あの顔で、あの体でそういうことして、あの声でそういうこと言っちゃうのか、と思うと、男のロマンが掻き立てられるみたいな。
で、それはおれの大学の仲間だけに広がってる話なんだけど。
だから、まあ、高梨さんの名誉のためにも否定しなきゃいけないとはわかってるんだけど、当の高梨さんはだんまりを決め込んでるし、今さら躍起になって火消ししてもかえって火に油を注ぐ結果になりかねないだろうか。一体、どうしたらいいのか……。
……というのを、一条に相談したら、ブチ切れた。
「たとえそうでもそうじゃなくても、否定しろよ!」
「じゃあやっぱり、おまえが助けったっていうのはウソ……」
「ウソじゃないっ!」
「実はさ」
怒られついでに、もう一つ相談することにした。
「もう一回、飲み会やろうって……」
「はあっ⁉」
そう。
あのハンバーガーを食べ終わった後、松本さんが言ったのだ。
「とにかく、この間のは失敗。一条君、この間の時、一次会で帰っちゃったでしょ? 前の同期会の後からずっとLINE交換してるんだけど、なんかつれないしさ。誘ってもなかなか時間作ってくれないし。もうここは、一気に攻め込むしかないかも」
「でも」
「大谷君だって、今度はチャンスよ。高梨さん、そんなに軽いんだったら、今度は大谷君が持ち帰っちゃえばいいじゃない。体の関係からつきあい始めることだってふつうにあり得るんだから」
っつーか、松本さん、こわいっス。
それでもやっぱり、武田先輩から聞いてた話が頭から離れなかったし、松本さんが言うのもあり得ると思ってもう一度高梨さんを誘ってみた。
「絶対ヤダ」
って言うんだけど……その声でその顔で言われてもさあ……ほんとは「いい」って思ってんじゃないの、って、思っちゃうんだよね……。それでも、
「たのむよ。高梨さん来ないと盛り上がらないしさ」
と、拝み倒した。ランチおごる、とか、ディナーおごる、好きなもの買ってあげる、って言ったんだけど首を縦に振らない。
とうとう、「仕方ないなあ」 と、折れたのは、
「一条も誘うからさ」
そう言った後だった。
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