第2話 真反対な二人

翌日の土曜日。


(……寝れなかった…)


昨日の母さんから告げられた『妹が出来る』という言葉に頭の思考が見事に停止。─今に至るわけだ。


(……家族が増えるのか、実感がないな)


今まで、俺を一人で育ててくれた母さんと好きだった風花を守るために俺は体術を身につけた。


そして、昨日、頑張ることに疲れた俺が再び、新しい家族を守ることになるんだ。


「……早めに準備しとかないとか」


現在の時間は7時前。向こうの人達が来るのは9時なので、それまでの間、筋トレして時間を潰すことにした。


〜〜〜


「おはよう、隼人。」


1時間ほど筋トレをした俺は1階のリビングに降りる。リビングでは、母さんが掃除していた。


「母さんおはよう。俺も何か手伝うことはある?」


「特にないわね。まあ、身だしなみに気をつけてくれればいいから」


「りょーかい」


俺は母さんが作った朝ごはんを食べ、自分の部屋に戻り、着替える。


─時間はもう、9時前を回っていた。


ピンポーン!


玄関のチャイムが鳴った。その音を聞いた瞬間、なぜか背筋が伸びる。


母さんがインターホンに出て、少し弾んだ声で答えた。俺も迎えるために玄関に向かう。


「はーい、今開けるわね」


鍵が回り、ドアが開く。


「お邪魔しまーす!!」


1番最初に聞こえてきたのは、元気で明るい声。


─そして、聞き馴染みのある声。


ショート寄りの髪に、太陽みたいな笑顔。こちらを見るなり、その少女は目を輝かせる。


「……って風見くん?!何でここに?!」


「……は?……え、橘?もしかして……」


俺と目の前の美少女─たちばな 咲彩さあやの混乱を前に母さんが口を開く。


「あれ?もしかして、知り合い?」


「え…あぁ、知り合いってよりかは……クラスメイト…」


「じゃあ、話も早いわね!ここで立ち話もあれだし、後ろの二人も待ってるわ!」


「あっ!そうだった!ごめんお父さん、玲奈!」


橘は後ろの二人に謝る。お父さんは「大丈夫だよ」と促し、中に入ってくる。そして、もう一人、橘とは真反対の冷たい雰囲気を放つ美少女。


(確か……クラスに橘っていう苗字は二人いたよな……?)


「……まさか、あなただったなんてね」


「えっと……橘 玲奈れいなだったか?」


「正解。周りに興味がないあなたでも名前は知ってるのね」


「まあ、クラスの話は聞こえてくるしな……それに有名ですし…」


橘 咲彩と玲奈。俺のクラスメイトであり、学年で有名な美少女姉妹。確か、姉の方が玲奈で妹が咲彩。しかし、姉妹にも関わらず、性格が真反対と言われている記憶が……。


「とりあえず、中に入りましょ。みんな先に行ってるし待たせるのも悪いな」


「……だな」


俺は橘姉の方をリビングに案内する。リビングに入ると母さんと橘父、橘妹が既に座っていた。


「あら……?」


母さんが、俺と橘姉を見比べる。


「……もしかして、玲奈ちゃんも、咲彩ちゃんと一緒で隼人と同じクラスだったりするの?」


母さんのニコニコスマイルに押されるように橘姉は口を開く。


「……まぁ、そうですね」


「隼人くんが同じクラスなら、二人も家では大丈夫だろう!」


橘父は豪快に笑う。橘父は見た目も整っており、豪快さがあるのが意外と思った。


「まぁ、風見くんはクラスだといつも一人だもんね!」


「……言い方を考えてくれ…」


母さんは驚いたように目を瞬かせたあと、心配そうに俺を見る。


「えっ……、学校楽しめてる大丈夫?」


「まあ、別に虐められてないし、1人が好きなんだ」


俺の答えを聞いて、母さんは安堵のため息を漏らす。


(言えるわけないか……風花に振られて、他人との関係を絶とうとしたって)


これ以上迷惑はかけられない。そんな想いを抱えながら、俺は思考を切り替える。


─その間、橘姉が俺を見ていたのは気づかなかった。


重苦しい雰囲気を変えるように橘姉が静かに口を開く。


「……改めて、自己紹介をした方が良さそうですね」


そう言って、俺の方を見る。


「橘 玲奈です。今日から……あなたの義妹になります。咲彩の姉です」


淡々とした声。でも、その言葉はやけに重く胸に落ちた。


「でっ、妹の橘 咲彩です!」


次の瞬間、咲彩が一歩前に出る。


「よろしくね、義兄さん!」


「……」


『義兄。』


昨日まで、俺は一人だった。守る対象も、距離を取る相手も、全部自分で決められた。


「……よろしく」


短くそう返すと、咲彩は満足そうに笑った。


「よかったー!クラスで知ってる人が義兄さんとか、心強いもん!」


「咲彩……」


玲奈が小さく咎めるが、咲彩は気にしないその様子を見て、俺はふと気づく。


(……昨日の、あの二人)


フードを被っていたから顔は見えていないはずだ。


でも、声と、雰囲気が——重なる。


「……なに?」


俺の視線に気づいたのか、玲奈が問いかける。


「いや、なんでもない」


今は、まだ言うべきじゃない。確証もない。


─俺が昨日助けたのがこの二人だったなんて。


「それじゃあ」


母さんが手を叩いた。


「今日から家族なんだし、まずはお昼の準備しましょうか」


「はーい!」


咲彩が元気よく返事をする。


「……了解です」


玲奈も、短く頷いた。こうして。


俺の“何も変わらないはずだった日常”は、

クラスの氷姫と太陽姫が義妹になることで


──静かに、確実に、壊れ始めた。

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