幼馴染に振られた俺、義兄になる。〜義妹はクラスの氷姫と太陽姫でした〜

空乃 猫丸

第1話 胸騒ぎ、始まりの前夜。

「……やっぱり、こうなるか…」


目の前に張り出された結果を見て、俺はぽつりと呟く。


二年一学期中間考査順位

一位 小鞠こまり 風花ふうか 481点

二位 桃坂ももさか 玲奈れいな 479点

三位 村瀬むらせ 駿太しゅんた 462点


──そこまで見て、俺は目を逸らした。


廊下に張り出された二年最初の中間テストの結果。当然、多くの生徒がに見に来るわけで─


「お前、また下から数えた方が早い順位じゃん!」


「るせー、少しは上がったつーの」


といっ結果にグチグチ言ってる人が多くいる。しかし、今回だけは違った。


「あれ?一位が風見くんじゃない。小鞠さんだ」


ある一人の女子生徒の発言によって、その異変が共有されていった。


「確かに。あの不動の一位と言われていた風見が、まじか……」


「しかも、三十一位内にも名前がないよ」


今、この場にいる多くの生徒の視線が俺に向けられた。


(ややこしくなったな……)


俺はここからの打開策を考えていると後ろから声をかけられた。その声は聞き慣れていて、俺が──


「あれ?隼人が一位じゃないなんて珍しいね?しかも、私が一位だし……」


俺は後ろを振り返ることもせず、口を開く。


「そうだな、おめでとう。俺は教室に戻るから」


──俺はもう、彼女と対等ではない。だから、この空気感が気持ち悪かった。


そう後ろの人物──小鞠 風花に言い残し、俺は歩き出した。


「ちょ…隼人?!……もうっ!」


軽やかな足取りで人混みを抜けていく俺を彼女は止められずに地団駄を踏んだ。


俺は小鞠 風花が好き”だった”。今は好きじゃないといえば嘘になる。しかし、もう全てが手遅れなんだ。


『ずっと風花のことが好きでした!付き合ってください!』


テスト週間に入る前、俺は風花に告白した。昔ながらの幼馴染で、風花の明るい性格や優しさに惹かれていた。


しかし──


『……ごめんなさい。私、隼人とは恋人じゃなくて…仲の良い友人のままでいたいの……』


そもそも、俺は風花に恋愛対象として見られていなかった。それに絶望した俺は頑張ることを一瞬でやめた。


彼女の隣に立つために運動や勉強を誰よりも頑張って結果を残してきた。しかし、彼女に振られた今、頑張る理由がなくなってしまったのだ。


「久々だな……この感覚」


頑張ることをやめた俺は、何か肩の荷がおりた気がした。


(もういいんだ……少し…休みたいな………)


好きな人に必要とされなくなった今、俺は胸に穴が空いたような感覚だった。


〜〜〜


下校時刻になり、俺は誰よりも早く教室を後にした。友達曰く、学年の話題は俺のことらしい。


──一位じゃない、風見 隼人。

それだけで有名になったのだとか。


1年の時は、全部の試験で一位をキープしていたから、こうなるのも時間の問題だと思っていた。


まさか、幼馴染に振られて、終わるとは思ってもなかったけど。


(久々にゲームでもするか……)


ここ最近は勉強しかしていなかったため、ゲームや漫画などの娯楽に触れていなかった。


「今から家電量販店行っても間に合うか─」


「ちょっと、離してください!」


少し遠くから聞こえてきた明らかな否定的な声。俺の視界に写ったのは、女子二人が男に言い寄られてる場面だった。


(まあ、他の人もいるし……俺はもういいや)


他の通行人の視線もその人たちに向いているが、誰もスマホを向けて助けようとしない。


「ちっ、ここじゃ人目がつくな。……こいよ」


スマホの視線に気づいた男が二人のうち一人の手を強引に引っ張って、裏路地に連れていこうとした。


「だから、嫌ですっ!!」


「うっ…」


しかし、女子の方が無理やり手を解いたせいで、男を殴ってしまった。


「てめぇ……!」


我慢の限界に来たのか男が手を振りあげ、拳を振るう──


バシッ!


「んあ?」


「人目のつくところで何やってんだよ」


しかし、男の手は──目の前に立った俺によって止められた。俺はがっちりと男の手を掴む。


「なんだお前!関係ないだろ!」


「そりゃあ関係ないけど、困ってる人を見捨てるほど落ちぶれてはないんだ」


「……ガキ、いい度胸だな。」


「子供だから─なんだ?」


後ろの女子をこれ以上怖がらせるのはダメだと思った俺は男に殺気をぶつけ黙らせる。それを見て何かに気づいたのか、男は手を下ろし、去っていった。


「今度あったら覚えておけ!」


「……そのセリフ、漫画でしか聞かないと思ってたわ」


俺は、誰かの心に残って欲しい訳ではなく、ただ困ってるから助けただけでいいため、フードを被り、顔を見えないようにしていた。


「二人とも、大丈夫だった?」


「は、はい……ありがとうございます」


後ろを向いて、二人の状態を確認してはないが、声だけで警戒しているのはわかった。


「気をつけて帰ってね。それじゃ」


「あ、あの……!」


呼び止める声が聞こえたが、俺はどこか心苦しい気持ちがあり、無視してその場を後にした。



家に着いた頃には、空はすっかり暗くなっていた。玄関の電気をつけると、いつもより家の中が静かに感じる。


いや、正確には——静かすぎた。


(まだ、帰ってないのか……?)


そう思いながらリビングに向かうと、ソファに座っている母さんの姿が目に入った。


「隼人。ちょっと、座ってくれない?」


その声色は、いつもより少しだけ固い。俺は何も言わず、向かいの椅子に腰を下ろした。


少しの沈黙のあと、母さんはゆっくりと口を開く。


「実はね……大事な話があるの」


嫌な予感、というほどではない。ただ、胸の奥が、わずかにざわついた。


「お母さん、再婚することになったのよ」


「ゑ?」


……一瞬、言葉が頭に入ってこなかった。


「相手の人には、娘さんが二人いてね、年は……確か隼人と同じくらいだったわ」


俺は、息を吐いた。驚きは、あった。

でも、不思議と混乱はなかった。


(家族が……増える、のか)


「明日から、一緒に暮らすことになるの。今日は向こうに泊まってるけど……明日、改めて紹介するわね」


そう言って、母さんは少しだけ不安そうに俺を見る。


「……無理に、仲良くしろとは言わないけども、家族になる以上——」


「分かってるよ」


俺は、それだけ答えた。無気力なはずなのに、胸の奥で、何かがわずかに動いた気がした。


今日、困っている誰かを助けた。

名前も名乗らず、顔も見せずに。


そして今度は、守るべき存在が、家の中に増えるらしい。


(……皮肉だな)


もう何も頑張らないと決めた、今日に限って。


「明日から、よろしくね」


その言葉に、俺は小さく頷いた。


——その“明日”が、


俺の日常を温度差が真反対な二人の義妹によって、大きく変えられていくなんて、知る由もなかった。

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