第15話
アレン達はリリーとアメリへ翌日改めて迎えに来ると伝え、一度村の宿へと戻っていった。
その日リリーは浮足立った様子でご機嫌に荷造りし、長らく家を空けることになるかもしれないからと言って少しだけ家を整理すると、明日への期待を胸にいつもより早めに寝床に就く。アメリはその様子を、何をするでもなく、ただ見つめていた。
深夜。
アメリはお気に入りのブランケットに包まり眠るリリーを眺める。ブランケットは数年に渡り使用されているのか、洗いざらしてすっかりくすんだ色をしている。明らかに捨てたほうが良さそうな代物だが、リリーはこれがお気に入りだから、安心するからなどと言って手放そうとしない。アメリには理解できない。
リリーは時折恐ろしいものに対峙しているかのような面持ちでアメリに接するのに、言葉を教えたり、食事を与えたり、果ては噛み付いたり抱き着いてきたりもする。アメリには理解できない。
人間の感情や営みというものを、アメリは本質的に理解できない。
(―――だが、構わない。)
アメリがその指先でリリーの頬や鼻先をなぞる様に順番に触れると、リリーはむずがるように眉を寄せてモゾモゾと動く。アメリは最後にリリーの唇へ触れると、微かに口角を上げる。アメジスト色の瞳からは妖しい輝きが放たれていた。
(構わない、リリーが我と共にあるならば。)
アメリはリリーへ顔を近付けると、リリーの唇と自身の唇をほんの少しだけ、触れたか触れていないかも分からないほど慎重に、そっと重ね合わせる。
以前リリーが唇へ噛み付いてきたときに感じた言いようのない感情を、今ならば理解できるような気がしていた。
当然、こんな一瞬の触れ合いで、深い眠りに就いているリリーが起きることはない。
だがその無防備な寝顔を見ていると、アメリは突然自身の内臓が熱を持ち、ズキズキと疼くような感覚を覚えた。
自身の本能に従いアメリはリリーの上へ乗り上がると、リリーの顔の横へ両手をついて見下ろす。真っ白な髪が重力に従いリリーを囲うように垂れると、まるで彼女が自身という檻に閉じ込められているように見えて、アメリは気分が良くなる。
だが「リリーに触れたい」という強烈な欲望と衝動があっても、この先、これ以上どうすればいいのかアメリには分からなかった。この家にあるどんな本にも、このような状況への対処法や関連するような知識は書かれていない。
だからと言って、いつものように手や髪に触れるだけでは満足できないであろうことも明らかだった。
アメリは自身の熱を逃す様に静かに吐息を漏らすと、音を立てずに自身もベッドへ横になる。結局、この感情がなんなのか、アメリにはまだ理解できそうになかった。
だが、1つだけはっきりと分かっていることがある。それはアメリが初めてリリーと遭遇した瞬間から、本能で理解していたことだ。
「リリー、お前は我と共にいるべき運命だ。」
アメリは誰に聞かせるでもなく一人呟くと、リリーの幸せそうな寝顔を見つめ、そして静かに目を閉じた。
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