第16話
「この服、変じゃないかしら……変じゃないわよね……?」
リリーは鏡の前で何度もくるくると回って、自身の姿を確認する。
今着ているのはアメリと出会った日に来ていた首元に花の刺繡が入ったワンピースで、転んだときの土汚れが若干残りつつも、この服がリリーの持つ中で一番上等なものだった。
「どう? アメリ、この服変じゃないかしら?」
「うん。」
「変じゃなくて良かったわ……じゃなくて! それだけ? もっと可愛いとか、似合ってるとか、そういう言葉はないの!?」
「リリーは何を着ていても変わらない。」
アメリの言葉にリリーはショックを受け、ガーン、という効果音が付きそうなほどへこんだ顔をして項垂れる。
(そうよね、私みたいな田舎娘は何を着ていたって変わらないわよね……。私ったら期待して、馬鹿みたいだわ。それでも一言くらい、可愛いって言ってくれても……いや、でもアメリは私のことをそんな目では見ていないもの。仕方ないわ……。)
アメリにとって重要なのはリリーがリリーであるという事実なので、服によって評価が変わることはないという意味での発言だったが、残念なことにリリーにそこまでの意図を汲み取ることは出来なかった。
またさらに残念なことに、アメリはその繊細な乙女心を理解できるほどの情緒は持ち合わせていなかった。
その後もああでもないこうでもないと髪の毛を弄りまわしているうちにアレン達がリリー達の元を訪れ、少ない荷物を馬車に詰め込み、一行はついに中央の都市へ出発することとなった。
調査員の人たちは皆自身の馬に乗るため、馬車の中にはリリーとアメリしかいない。
隣に座ったアメリが目の前の座席へ脚を乗せ、さらにそこで足を組むアメリをお行儀が悪いと叱りつつも(アメリは大人しく足を降ろした)、知らない土地へ向かう緊張から気疲れしていたのか、リリーはうとうとと眠り始める。
リリーが壁にぶつかりそうになる度にアメリが自身のほうへと引き寄せ、またぶつかりそうになっては引き寄せ、と繰り返しているうちに、あっという間に中央の都市へ到着する。
コンコン、とノックの音がしてセレーネが外から呼びかける。
「リリーさん、アメリさん、到着しましたわ。」
その声に飛び起きたリリーは慌てて涎を拭うと、アメリの手を引き馬車から降りる。
馬車を降りてすぐ目の前に、見たこともないほど大きく、豪華で荘厳な、まるでお城のような建物が聳え立っており、リリーは気圧されててしまう。
「すごい、まるでお城みたいですね……。」
セレーネがにっこりを笑って言う。
「はい、お城です。」
リリーはピシりと固まった後、顔を真っ赤にして顔の前で手をブンブンと振る。
「そうですよね、お城ですよね、お城でしかないです! 嫌だわ、私ったら……。」
まさか自分の国の城を認識していないとは、恥ずべき無知である。リリーはその場に穴があったら入りたくて堪らなかった。
だが仕方ないことでもある。国の末端も末端の村で生きる者にとって気にするべきことは、その日その日に暮らすためのお金とか、食料とかそういうものであって、お城の外観や素晴らしさは関心領域外のものだった。
セレーネはそれを馬鹿にすることもなく、二人を目の前の城から歩いて5分ほど離れた建物へ案内する。
アレンや他の調査員達は、報告があったり居住場所が向かう場所とは違うようで、城前でお別れとなった。
「ここは国に所属する魔法使いの宿舎のようなものでして、私たち魔法使いの殆どがここで生活しております。職業柄、有事の際には即座に対応できるよう、城の敷地内での生活が許されておりますの。」
「なるほどぉ……。」
「お部屋へ案内させていただきますわ、お二人とも、どうぞこちらへ。」
お城に強いインパクトを受けた後だったが、宿舎も随分豪華な造りで、なんだか自分が場違いに感じてしまい、リリーはそわそわしてしまう。
不安から隣にいるアメリの手をそっと握ると、意外なことにアメリも手を握り返してくれた。
「堂々としていろ。」
「うん……。」
アメリは当然ながらここでも全身を覆うような服装をしなければならないため、すれ違う人々に不審な目を向けられていたが、意にも介さない様子だった。それに少し勇気をもらい、リリーも真っ直ぐに前を向いて歩く。
少し歩くとセレーネが扉の前で立ち止まり、「ここがお二人の部屋ですわ。」と告げる。
「アメリさんがあまり人との接触を好まれないようでしたので、他の者とは少し離れた場所にお部屋を用意しましたの。右がリリーさんのお部屋で、左がアメリさんのお部屋となっておりますわ。荷物を置かれたら、食堂や図書室を案内しますわね。」
その言葉にリリーは笑顔で頷くと、自身に割り当てられた部屋へ入る。
(私たちの暮らしていた家の、倍くらい広いんじゃないかしら?)
リリーは少ない荷物を下ろし部屋を見渡す。自分ひとりには、広すぎるくらいだ。ここで一人で生活するのは、もしかしたらちょっと寂しいかもしれない。
特に整理が必要な荷物もないため、リリーはすぐに部屋を出てセレーネに宿舎の案内をお願いする。
アメリも行こうと誘ったが、「必要ない。」とだけ返されたため仕方なくリリー1人だけが案内してもらうことになった。
リリーはアメリにこそ一番案内が必要だろう、少なくとも食堂については、と思ったが、セレーネが「まあ、食事はお部屋まで運ぶことも可能ですし、宿舎はそんなに分かり辛い造りでもありませんので……。」と苦笑しながら答えてくれたため、一旦アメリの無礼からは目を逸らし、細かいことは気にしないことにした。
一通り見て周った後、リリーはセレーネにお礼を告げ、自身の部屋へ戻る。
ガチャリと音を立てて扉を開けると―――。
「遅かったな。」
「―――な、なんでこっちの部屋に居るのよ!?」
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