第11話

 リリーは二人を家へ招き入れ、座らせている間にそっとフライパンを戸棚にしまう。

「失礼、お料理中でしたか?」

「……えっ!? あは、まぁ……。」

 この家はリビング(今に限っては客間も兼ねている)と台所が一体になっているため、いくらこっそり動こうとしてもどうしてもリリーの行動が目に入るのは仕方のないことと言える。

 まあ、そうよね、気付かないわけないわよね、とリリーは思う。

 でも、気付いても見て見ぬふりしてくれればいいのに……。騎士道精神というものには、突っ込まれて気まずくなりそうな場面では見て見ぬふりをする、みたいな項目は含まれていないのだろうか。


「アレン、そんなこと言葉にするものじゃありませんわ。突然人が訪ねてきたら、警戒するのは当たり前のことですもの。」

 アレンと、もう一人同行者として招いた女性がローブを脱ぐ。

 リリーは思わず言葉を失ってしまった。豊かな金髪に、色素の薄い青い瞳。とんでもない美女だ。少なくとも、生まれてこの方、地元やこの村では見たこともないような。

 柔らかく微笑まれると、梅雨明けでやや汗ばむこの季節でも、今まさに春が訪れたような気持になる。

 リリーは思わずドギマギしてしまい、顔を少しだけ赤くしてうつむく。

「同行を許していただき、感謝いたしますわ。私はセレーネ。セレーネ・フォンタネアと申します。国に所属する魔法使いとして、研究や有事の際の調査を受け持っております。」

 庶民には姓がないため、姓があるのは貴族の特徴だ。リリーは慌てて顔を上げる。

「貴族の、しかも魔法使いの方なのですね……! 私、何か失礼があったらごめんなさい。」

「お気になさらないで、どうか気負わないで接してくださいませ。ここには貴族ではなく、一調査員として出向いているに過ぎませんもの。」

 それを聞き、リリーは安心して一度頭を下げると、二人に座るよう促しお茶を入れる。

 お茶を入れる段階でこの家にはティーカップが二つしかないことに気付いたが、何でもないような素振りで二人に提供し、必要ないので自分の分は入れていないだけですよ、といった顔をしておいた。ある種憧れのような存在である騎士や魔法使いに対するちっぽけなプライドのようなものだ。おそらく二人にはバレているだろうが。


 アレンとセレーネは笑顔でお礼を言うと、改めて本題に入ろうとリリーに向き直る。

「さて……では早速ですが本題に入らせてください。近頃この辺りでは野生動物の狂暴化が目立つと聞いています。普通なら、各地の自警団や有志の方に対応してもらうのが一般的なのですが……。体格や狂暴性、出現スピードが尋常ではないとの報告が多数あったため、中央の都市より一部騎士団員と調査員が派遣されることになりました。野生動物は言うまでもなくこの近辺の森から現れているものと思われますので、まずはよく調査させていただければと。当然ですが、俺たちがリリーさんのご迷惑になるような行動は、可能な限り避けますのでご安心ください。」

「はぁ……。」

「それからリリーさん、私、今アレンが言ったような調査とは別に気になることがありますの。最近、生活していて変わったことはございませんこと?」

 意味深な視線を向けられてリリーは少し緊張してしまう。

「この家から魔力を感じますわ。それも、とっても濃厚な。」

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