第10話
人が訪ねて来るなら朝食なんて食べてる暇ないだろう、とリリーは思ったが、アメリが食事を食べないという選択を絶対に許さないことも分かっていたため、大急ぎで着替え、朝食の準備をし、アメリの前に大皿が5枚、6枚と積み重なっていくのを遠い目で眺めながら自身も食事を済ませた。
そして念のためアメリにフード付きのローブを着せると、いつもお客さんが来たときそうしているように、人がいる間は部屋にいて、人目につかないようにとお願いする。
アメリは興味なさげに了承すると、本を手に取りベッドサイドへ脚を組んで座り、ペラペラと頁を捲り始める。リリーはそれを見て苦笑すると、窓から身を乗り出し人の姿を目に捕らえようとする。
「うーん? 全然、人が来るような感じはしないわ。」
「少しは待て。」
「どのくらいたくさんの人が来るのか、アメリには分かる?」
「分からん。我が人間たちがここへ向かってくると察知したのは、ほとんど本能的なものだ。人間がここへ来るであろう予感があっても、詳細までは分からない。」
「そうなのね……。」
アメリは再び頁を捲り始める。楽しんで読んでいるというよりは、学習のための機械的な動きに見えた。
リリーはアメリの言っていた本能について、野生の勘のようなものだろうか? と考える。だとしたら、アメリが人がここへ来るように察知したのは、あまり良いことでは無いように思えた。
リリーは内心(犯罪者が来たらどうしよう……。)と怯えたが、あまり心配しても仕方がないので、その間に洗い物を片付けることにした。
そうして洗い物を終えて暫くした頃、扉をノックする音が響く。一拍間を置いて、「どなたかいらっしゃいますか?」と若い男の声がした。
リリーは(本当に来たわ!)と驚きつつも「はーい!」と元気よく返事をして扉へ向かう。本当に、本当に念のため、手にはフライパンを握って。
恐る恐る扉を開け顔を覗かせると、そこにはなんとも人好きのするような笑顔を浮かべた好青年がいた。赤い髪と榛色の瞳は、如何にも快活そうな印象を人に与える。腰には剣を携えて、背後には馬に乗った数人の男性たちと……ローブを纏った女性が1人いた。
(―――騎士!)
リリーは思わず後ろ手に隠し持ったフライパンを落としそうになって慌てて握りしめる。リリーは騎士なんて生まれてこの方見たことが無かったため、どう接すればよいのか分からなくなってしまう。
そんな様子をみて、目の前の青年は安心させるように微笑むと言葉を続ける。
「突然お訪ねしてしまい申し訳ありません。最近この近辺で発生している異常を調査するようご依頼があり、中央の都市より派遣されました。アルビダ王国ダル・ダナ騎士団、第4部隊所属のアレンと申します。」
「あ、ご丁寧にどうも……。私はリリーと申します。ここで服の修繕や小物売りをして生活して……おります。」
リリーはぎこちなく挨拶をした。村長が中央の都市に調査要請をしていたと聞いていたが……まさか騎士が出て来るなんて。
アルビダ王国はまさにこのディルカ村が属している国で、国の中心に大きく中央の都市があり、都市を取り囲むように町が、そしてそのさらに周辺に村々が点々とあるような作りになっている。騎士は中央の都市かいくつかの主要な町にしかいないため、このような僻地の村ではまずお目にかかることがない存在だ。
それに加えて、リリーは男性に対して耐性がほとんど無い。そのためガチゴチに固まってしまい、どうしてもたどたどしい対応になってしまう。
「すみません。野生動物の狂暴化に伴う調査なのですが、森の近くに住んでいる方がいるとディルカ村の方から伺いまして……。失礼ですが、お話を伺わせていただいても良いですか?」
「あの、ハイ。もちろん! 見ての通り狭い家なので、全員に上がっていただくことはできませんが……。どうぞお入りください。」
アレンが目配せすると、背後の男性たちは待機の体制を取る。唯一、ローブの女性のみが同行者として共に話を聞くことを希望したため、リリーは了承する。
「では、お二人とも……大したおもてなしも出来ず申し訳ないのですが、どうぞお入りになってください。」
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